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「時間も限られてますし、せっかくですから港をご覧になられては如何ですか?」 ルーと手を繋いだオレに苦笑を浮かべつつも、オリバーさんが提案してくれて。その意見に乗っかり、港に向かって歩き出す。 人々が行き交う中を抜けて行くと、段々と磯の香りが強くなってきて…。 「久しぶりだなぁ、海…。」 目前に一際活気立つ港。 その向こうに広がる真っ青な海が、視界いっぱいに映し出される。 「そういえば…初めてセツと出会った時に、言っていたな?」 ルーが言うように…オレがこの世界に来る直前までは、旅先のフェリーに乗ってて。 突然現れた鯨に巻き込まれたのを最後に…目覚めたら、もうここにいたんだっけ。 時間にすれば、ほんの2ヶ月くらいのことなのに。気付いたらこの世界に馴染み過ぎちゃってて。 それさえも、随分昔のことのように感じてしまうから…。 「セツは…元の世界が、恋しくはないのか?」 「え…?」 問いながら、ルーの声は何処か哀愁を漂わせていて。弾かれ見上げると、じっと射抜いてくる瞳が…仄かに揺らいだのが判る。 「あ──…考えたこと、なかったなぁ…」 家族もいた。友人も、元恋人のアリサちゃんだって…会いたいかと問われたら、勿論会いたいけど。 もし今、どちらか一方を選べと言われたら… 「…オレは、ここにいたいよ。」 ルーっていう大切な人がいて…。 ロロ達や、この世界で出会えた素敵な人達も沢山いるから。元の世界が恋しいだなんて、それこそ一度も思わなかったかもしれない。 だからこの世界で過ごしてきた日々は…オレにとってかけがえのないものであり。一生分ともいえるような、幸せなひと時だったんだから…ね。 「セツ…」 繋いだままの手が、離したくないとでも言いたげに。強く握られる。 だからオレも、応えてぎゅっと握り返したら。 ルーはとても嬉しそうに目を細め…微笑んだ。 「屋台も見て回ろうよ~。」 「俺も腹減ったし、何か食いたい~!」 ロロとジーナはそれが目的だったのか。オレ達を先導し、人が犇めく通りへと誘う。 「全く、仕方ないな…。」 「ふふっ…まだ若いんだし、いいんじゃないか?」 オレも行ってみたいと告げ、ふたりみたくはしゃいで駆け出す。 「こうして見ると、セツも幼く感じるよねぇ。あの容姿で二十歳を超えてるとは思えないし。」 「え…!?」 オレの後ろからアシュが笑いながら溢すと、オリバーさんが驚く声が聞こえて。 「私はてっきり17、8くらいかと…」 なんてぽつりと呟くから。 「えっ…オレってそんなに子どもっぽく見えるんですか?」 「や、子どもっぽいわけでは…華奢でその、中性的な雰囲気があるのでっ…」 振り返り、食い気味にオリバーさんへと問えぱ。彼は慌てて弁解するのだけど。 う~ん…日本人て、外国の人から見ると幼く見えるっていうからなぁ…。

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