302 / 423
⑥
「…次は無いと思え。」
『はひィィ…!!!』
ルーが唸るように忠告し、手を離すと…男達は一目散に逃げて行ってしまった。
途端にどっと冷や汗を流すオレは、大きな嘆息を漏らす。けども…
「セツ…」
「わっ、解ってる…ごめんてばっ…」
次には長身な美形3人に取り囲まれるもんだから。
なんとも居たたまれない。それに…
(身体がっ、勝手に…)
思ってる以上に、大柄な男に腕を捕まれたのが怖かったのか…震えが止まらなくて。
バレないように、手で抑えようとするのだけど。
すぐには治まりそうになくて…。
「セツ…」
3人は察してしまったのか、それ以上は何も言わなくなり。ルーは黙ってオレを抱き寄せ、あやすみたく背中を擦り始める。
「ごめっ…情けないよね、あれくらいでビビっちゃって…」
誤魔化して自嘲するけど、ムダな悪あがきなのはバレバレだから。
「すまない、手を離して…」
ルーの所為じゃない。
オレが自分で振りほどいたのに…
「違っ…も、離したりしないから…」
俯いたまま、ルーの手を取って握り締める。
「僕達は…セツのことが何より心配なだけだから、」
ちゃんと守らせて?アシュは優しく微笑み、頭を撫でてくれた。
「申し訳ありません、私が余計なことを言ったばかりに…」
「そんなっ…悪いのはオレだし、謝らないで下さい!」
オリバーさんにまで頭を下げさせてしまったもんだから。ちゃんとみんなの言うこと聞いて、反省しなくちゃな…。
「お~い、なんかあったのか~?」
なかなかやって来ないオレ達を気にして、ロロとジーナが戻って来るのが見えて。
「お前達、セツからあまり離れるなと────」
ルーがオレの手を握って、ふたりの方へ歩み寄ろうとした瞬間。
「え…」
視界がぐにゃりと歪み、妙な感覚がオレを襲う。
「なん、だ…コレ…」
嫌な予感がし、無意識にルーの手をぎゅっと握り締めた─────はず、
なのに。
「え?…る、う…?」
その手は空振り、見やれば自分のそれをただ握り締めていただけ。
オレは訳も解らず、辺りを見渡す…と。
(どう、なって…んの…?)
港から、露店の並ぶ通りへと向かう途中だった。
周りには船に積むための木箱が積んであって…人もそれなりに行き交っていたし。
ルーとはもう、絶対に手を離さないからって…。
アシュやオリバーさんもすぐ傍にいて。ロロとジーナだって、こっちに走ってきてたはず…なのに。
目の前の光景は、まさに異質。
港街の面影はあるものの…目をじっくり凝らしても、何故か少し先の視界は、歪に闇に溶けていて。
見えてるのに見えないというか…
解るのは、それがおかしいということだけ。
(この感覚は…)
似てるんだ。以前魔族のジークが、神子屋敷に侵入してきた時の…あの空間に。
だからだろうか、やっと治まった震えが再発して。
全身で恐怖を訴えてくるから…。
「ルー!みんなっ…」
この場に呑まれないよう、必死で叫ぶのに。
声は響くことなく、目の前で霧散するように掻き消されていく。
居ても立ってもいられなくなり、駆け出そうとするけれど。
距離感も何も掴めない領域は、オレを孤立させるかのように。それこそ本当に走っているのかさえ、分からないから…
頭が、おかしくなりそうだ。
ともだちにシェアしよう!