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「…次は無いと思え。」 『はひィィ…!!!』 ルーが唸るように忠告し、手を離すと…男達は一目散に逃げて行ってしまった。 途端にどっと冷や汗を流すオレは、大きな嘆息を漏らす。けども… 「セツ…」 「わっ、解ってる…ごめんてばっ…」 次には長身な美形3人に取り囲まれるもんだから。 なんとも居たたまれない。それに… (身体がっ、勝手に…) 思ってる以上に、大柄な男に腕を捕まれたのが怖かったのか…震えが止まらなくて。 バレないように、手で抑えようとするのだけど。 すぐには治まりそうになくて…。 「セツ…」 3人は察してしまったのか、それ以上は何も言わなくなり。ルーは黙ってオレを抱き寄せ、あやすみたく背中を擦り始める。 「ごめっ…情けないよね、あれくらいでビビっちゃって…」 誤魔化して自嘲するけど、ムダな悪あがきなのはバレバレだから。 「すまない、手を離して…」 ルーの所為じゃない。 オレが自分で振りほどいたのに… 「違っ…も、離したりしないから…」 俯いたまま、ルーの手を取って握り締める。 「僕達は…セツのことが何より心配なだけだから、」 ちゃんと守らせて?アシュは優しく微笑み、頭を撫でてくれた。 「申し訳ありません、私が余計なことを言ったばかりに…」 「そんなっ…悪いのはオレだし、謝らないで下さい!」 オリバーさんにまで頭を下げさせてしまったもんだから。ちゃんとみんなの言うこと聞いて、反省しなくちゃな…。 「お~い、なんかあったのか~?」 なかなかやって来ないオレ達を気にして、ロロとジーナが戻って来るのが見えて。 「お前達、セツからあまり離れるなと────」 ルーがオレの手を握って、ふたりの方へ歩み寄ろうとした瞬間。 「え…」 視界がぐにゃりと歪み、妙な感覚がオレを襲う。 「なん、だ…コレ…」 嫌な予感がし、無意識にルーの手をぎゅっと握り締めた─────はず、 なのに。 「え?…る、う…?」 その手は空振り、見やれば自分のそれをただ握り締めていただけ。 オレは訳も解らず、辺りを見渡す…と。 (どう、なって…んの…?) 港から、露店の並ぶ通りへと向かう途中だった。 周りには船に積むための木箱が積んであって…人もそれなりに行き交っていたし。 ルーとはもう、絶対に手を離さないからって…。 アシュやオリバーさんもすぐ傍にいて。ロロとジーナだって、こっちに走ってきてたはず…なのに。 目の前の光景は、まさに異質。 港街の面影はあるものの…目をじっくり凝らしても、何故か少し先の視界は、歪に闇に溶けていて。 見えてるのに見えないというか… 解るのは、それがおかしいということだけ。 (この感覚は…) 似てるんだ。以前魔族のジークが、神子屋敷に侵入してきた時の…あの空間に。 だからだろうか、やっと治まった震えが再発して。 全身で恐怖を訴えてくるから…。 「ルー!みんなっ…」 この場に呑まれないよう、必死で叫ぶのに。 声は響くことなく、目の前で霧散するように掻き消されていく。 居ても立ってもいられなくなり、駆け出そうとするけれど。 距離感も何も掴めない領域は、オレを孤立させるかのように。それこそ本当に走っているのかさえ、分からないから… 頭が、おかしくなりそうだ。

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