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(落ち着かなきゃ…) 今は独り、頼れる人はいないんだから。 まずは自分をしっかり保たないと。逸る鼓動を抑え、深呼吸をし… この状況から脱け出す術を、考えていると… 「どうしたの?」 「ッ…!!」 行き止まりだったはずの背後から、突然声を掛けられる。 粟立つ腕を押さえ、恐る恐る振り返れば… 「だ、れ…」 そこには見知らぬ人影があり。 反射的に身構えるオレは、じっとその人物に向け目を凝らした。 「僕?…僕はティンカ。」 よろしくねって、場違いなほど眩しい笑顔を湛えるその人に。更に不信感が募る。 「キミは…だよね?」 ティンカと名乗る人物は、ゆっくりと此方へ歩み寄り…オレは呼応して一歩後退る。 『僕』と言っているから、男…なんだろうか? その容姿はとても美しく儚げで。背は少しオレより高いくらいだったけど…。 腰くらいまで伸ばされた金髪は女性的で。 まるで洗練された陶器のような魅力を、全身から放っており。 強いて言うなら、人間離れしているというか。 例えばさっき街中で見掛けた、エルフのような…歪なこの空間には凡そ不釣り合いな雰囲気だったから。 それが余計に、オレの恐怖を煽った。 「ふふ…僕が怖い?」 「っ……」 相変わらず天使のような微笑みを繕っているけれど。オレは警戒心を剥き出し、気を張り巡らせる。 タイミングで現れたのだから、異空間の元凶はきっと彼…なのだろうけれど。 それが判ったところで、果たしてオレ独りで対処出来るのか…。孤独が故に、足がすくみそうだ。 「あの日から…は、キミのことばかり気にしてさ。せっかく僕が手伝って、神子を手っ取り早く始末出来るようにしてあげたのに…。」 ぽつりと告げる彼の声音には、寂しさと押し殺すような怒気が僅かに滲み出ている。 「キミは、魔族なの…?」 なんとか声を絞り出し、平常心に努める。 魔族の王ジークリッドの名を出してきたし… オレが神子だと知っているなら、おそらくこの人はなんだろう。 それでも確信に至らないのは、彼の容姿が魔族の特徴とはかけ離れていたからなのだが…。 「そうだよ、今は人に紛れるために少し変えてるけどね。」 そんな考えは見透かされ、ティンカという青年はクスクスと無邪気に答えると… 「っ…!」 「追い詰められてしまったね。」 後退する背中が、無いはずの壁にぶち当たり。 ティンカがオレの目前まで近付くと、ゆっくり手を伸ばしてくる。 頬に触れられれば、その指がひどく冷たく感じられて…オレの身体は大袈裟なくらい、びくんと跳ね上がった。 「早く、消してしまえば良かった…」 「っ…ぁ……」 目が合った瞬間、ティンカの目が…緑から赤色へと変わり。オレの身体が金縛りにでもあったかのよう固まってしまい、動かなくなる。 …と伸ばされていた手が首筋に宛がわれ、堪らず息を飲んだ。 「魔族にとって、邪魔な存在でしかないのに。」 「ぐっ…ぁ…」 華奢な身体からは思いもよらぬ力が、その真珠のような指先から込められて。締め付けられる首に、耐えきれず呻き声が漏れる。 捕えられたままの瞳は、絶やすことなく笑顔を繕っているのに。 隠そうとしない殺意が、余りにも狂気染みてて… 動けないのに。震えだけは止まらなかった。

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