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「どうして…ずっと一緒にいたのは、僕なのに…」 「う…ぅッ…」 突如として現れた魔族の青年ティンカは。 オレに対し、いきなり憎悪剥き出しで。 儘ならない呼吸に思考も働かず。なんとか逃れようと踠いてみるけれど…身体はやはりぴくりともせず、意識も段々と怪しくなってくる。 (ルー…) 繋いでた手の感覚さえ朦朧と、諦めるよりも先に意識は落ちかけていたのだが──── 「やめるんだ、ティンカ。」 「ラルゴ…」 思いも寄らぬ乱入者に。 ティンカ同様、オレも驚愕する。 静かに立っていたラルゴは、ティンカの名を呼ぶと。首を締める手を離すよう、無言で諭しており… 「どうしてお前が、邪魔するの…?」 魔族ならば。守護騎士もいない今が、まさに神子を始末するに好機なはずだ。 なのに仲間であろうラルゴは、ティンカをじっと見つめたまま。何故か悲しげな目をしていて…。 「ジークが望んだことだ。それに…俺は、こういうやり方が好きじゃねぇ。」 不信感を露にするティンカに、ラルゴはそう唸るように答えるけど。納得がいかないティンカは、彼を睨み付け反論する。 「そんなの選んでる場合?神子が死ねば、僕達は自由になれるんだよ!」 敵の言葉なれど、ティンカの考えは魔族側からすれば至極当然なわけで。 …なのにラルゴは、否と首を振る。 「お前にも、こんなことさせたくねぇんだよ…。」 だから手を離せと、ラルゴは巨漢に似合わず優しい物言いで説得しようとするから。 もしかしたら、彼は… 「ッ…ごほッ…はっ…!」 手が離された途端、身体を戒める力からも解放され。ずるりとその場に膝を付く。 一気に呼吸が戻ってしまった反動からか、激しく咳き込んでしまい…オレは堪らず自身の胸を掴んだ。 「セツ…!!」 同時に異質な空間も崩れていき… 何もなかった場所から、突如としてルー達の姿が現れ始め。 一瞬で状況を把握すると。皆がオレの元へと駆け寄り、すぐさま守るよう構えた。 「お前だけは違うと思っていたが…」 見損なったと低く言い放つルーが、オレの前へと立ち。剣の柄に手を添える。 ラルゴは何も応えず、茫然と佇むティンカを庇うよう…そっと抱き寄せるから。 「…セツ?」 声が出せなくて。それでもなんとかルーの服を掴み、必死に何度も何度も首を振れば… そんなオレを見ていたラルゴがぽつりと一言、 「悪かったな…」 そう告げ、ティンカを抱き上げると地を蹴って。 建物の上へと跳び移るや否や… 「待ちやがれ…!」 咄嗟にジーナが後を追うんだけど、オレがそれをやめるようルーに身振りで訴えるから。 「見逃せと言うのか…?」 「んっ…」 こくこくと頷けば、ルー達は顔を見合せ…しばらく思案するも… 「解った。とりあえず屋敷に戻ろう。」 言ってルーはオレを抱え、歩き出す。 「っ…ご、めっ…」 「無理に喋らなくていい。」 声を出そうとしたら、また咳き込んでしまい。 ルーが背中を擦ってくれたから。 安心したオレは、重たい頭をその胸に預け… 少しだけ意識を手放した。

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