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⑨
「どう…声出せる…?」
「ん…ありがと、ロロ。」
目が覚めると、オレは施設に宛がわれたオレの部屋へと寝かされていて。
ロロが回復魔法を掛けてくれたおかげで、なんとか声を取り戻し…安堵したのも束の間。
「一体…何があったのですか?」
知らせを受けたヴィンも加わり、ロロに介助されつつ起き上がると。オレは先程起こった出来事を、ゆっくりと語り始めた。
「…つまりそのティンカという魔族が、セツ殿を襲い…それをあのラルゴが止めた、と?」
ラルゴと剣を交えたオリバーさんは、何か思うところがあるのか…口元に手を宛て考え込んでしまう。
「これは、オレの推測なんだけど…」
きっとティンカはジークリッドに想いを寄せていて。
ジークリッドが神子に興味を示したから…
それが気に入らなくて、オレを消してしまおうと。独断で動いたんじゃないかなって…思うんだよね。
それに…
(たぶん、ラルゴも…)
ティンカを見つめるあの目が、それを物語ってたから…間違いないとは思うんだけど。
それはオレの想像でしかないため、敢えてラルゴのことは口にせず、前途の内容だけをみんなに伝えた。
「それなら辻褄も合いそうだね。魔族と云えど人と同じく心はあるのだから…当然のことだろうし。」
恋愛感情に理解を示すアシュが納得して頷くも、
ルーはなんだか複雑な面持ちでオレを見つめていて。
「それでも、魔王の仲間がセツを襲ったのは事実…同情には値しないだろう。」
あくまで冷たい言葉を突き付けておきながらも。
性格故、なのか…ルーの目は顕著に動揺を示しており。
オレはその手をぎゅっと握り締める。
「すまない、離さないと言った矢先に…」
「ううん、ちゃんと繋いでたんだから。ルーの所為じゃないよ。」
やっぱり気にしてたんだなぁと、オレが苦笑を浮かべると。ルーも返して握ってくる手の上に、もう片方を添え…包み込んだ。
「例えラルゴが信用に足る魔族だとしても、油断はしない方が得策だろうな…。」
「そうですね。セツにはまた暫く窮屈な思いをさせることになるでしょうが…ティンカという魔族の存在も気になりますので。」
オリバーさんが厳しい表情で告げると、ヴィンも同意して頷く。
「そだね…ごめん、オレが街に行こうって我が儘言ったから…」
「違うよ!セツはボクをっ…」
謝罪を口にしたらロロが割って入るけど。
それを制して、オレは首を横に振る。
「すまねぇな、セツ…」
「ジーナも気にしないで。」
すっかり沈んでしまった年少組の頭を抱き寄せ、ガシガシと掻き混ぜてやる。
そうすればまだ翳りはあるものの。
少しだけふたりの表情は緩められたため…安堵した。
「それよりさ、結局街でなんにも食べられなかったから。オレお腹空いちゃったよ~。」
「…ふふ、セツは本当に優しいねぇ。」
話題を変えるために、自然な流れでそう切り出したんだけど…アシュに笑われてしまい。
目は合ったものの、それ以上は敢えて何も言ってくることはなく。
「食事の用意は出来ているようだし…動けそうか、セツ?」
「うん、もう平気。」
ルーも察して機転を利かせてくれたから、オレは返事して立ち上がる。
「夜営の炊き出しじゃあ、セツは物足りなかったんじゃねぇの?」
「そんなことなかったよ。みんなで外で食べんのも楽しかったし。」
いつも通りに話を振るジーナに、オレは笑顔で答えると。
「ほら、ヴィンもオリバーさんも早く行こう?」
目を合わせ、苦笑するふたりを手招きして。
オレ達はぞろぞろと食堂へと向かった。
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