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「ひどいよ~、ルーのばかばか~!」 「酷いのはセツの方だろう…」 オレの部屋まで戻って来ると、ようやくベッドの前で降ろされて。オレはヨタヨタと千鳥足になりながら、ベッドの上にぼすんと座り込む。 そのまま足をバタバタしてたら、大きく嘆息されて…それでもルーは律儀に靴を脱がしてくれた。 なんか怒ってんのかなぁ~? さっきからずっと眉間に皺寄せてるし。 「ねぇ、なんでルーは怒ってんの~?」 「別に、怒ってなど…」 跪いて靴を脱がしてくれてたルーに飛び付いたら、勢いのまま床にすとんと座り込んで。 オレの身体を支えながら、ルーは黙って見上げてくる。 「うそうそ~怒ってるもんっ。」 怒んないでってオレが口を尖らせても。 赤くなって目を逸らすだけで、ちっとも機嫌直してくんないから。 「やだぁ…オレ、ルーがすきなのにっ…」 嫌いになっちゃったんだ…と、泣きそうな顔で問えば。ルーは違うと答えるけど。 「だったら、ちゅーしてよ…」 首元を指で撫でながら、甘えるようにねだると… ルーは複雑な顔をしながらも、ちゅっと軽くキスをしてくれた。 でもそんなんじゃ足りないから。 オレはまた、子どもみたいに首をブンブンと振って駄々を捏ねる。 「オレはルーがすきだからっ、いっぱいちゅーしたいのっ!」 いつもみたいに…そう言って口を半分開けてちろりと舌を覗かせたら、ルーはピクッと肩を揺らすけれど… 「はぁ──…皆にも好きだ好きだと言って、キスをしていたじゃないか…」 ああ、なんだ。それでずっと怒ってたのか。 合点がいって、オレは重くなってきた目蓋をパチパチとしばたたかせて。 ルーの唇に一度口付けると、 「ルーのすきと、みんなのすきは違うもん…」 「セツ…」 ルーを見下ろし告げるオレは、ぎゅうっと抱き付いて耳元で誘惑する。 「そんなに疑うならさ…」 今すぐルーのモノにすればいいじゃん?って… なんだか今は、大胆なことも平気で言えちゃうもんだから。 思いきってエッチなことしようよ~なんて、堂々と誘ってんのに。ルーは狼狽えつつも、ギリギリのとこでオレの身体を制して。 「いけない…お前は今、酔っているから…」 こんな形では抱けないと、冷静に諭そうとする。 「なんでっ…やっぱオレが男だから、やなの?」 「違う、そうじゃない…」 なら抱いてよ…感情がぐらぐらと乱されるオレは、堪らず泣き出してしまい。 ルーは困ったように、よしよしと慰めてくれるんだけど… 「私はセツが好きだから…不本意な形で、傷付けるような真似はしたくないんだ。」 酒の勢いに負けたら、お互いに後悔してしまうからと。切実に訴えるルーを、オレはじっと見下ろす。 「オレのこと、すき…?」 「ああ、大好きだよ。」 ほんとに? 不安に駆られるオレは、何度も何度もルーに詰め寄る。 その度ルーは、好きだ好きだと律儀に応えてくれて。とんとんと、泣きじゃくる背中を擦ってくれるから…なんだか心地良くなり、オレは欠伸を漏らす。 「ルー…すき、だよ…」 もう自分でも何を言ってるのか分からなくて。 そのうち頭も重くなり、ルーの肩に全て委ねれば。 一気に睡魔がやってきて…そうしてオレはすぐに寝息を立て始め、うとうと…と夢現を行ったり来たり。 「はぁ…セツには二度と、酒を与えてはならないな…」 最後に聞こえたルーの溜め息は、なんとも余裕なく吐き出されて。 ふわりと身体が浮き上がったと思えば、 次にはベッドの上…温かな感触に包まれたなら。 唇にもまた、大好きな人のそれが… 熱っぽい吐息混じりにやんわりと、落とされた気がした。

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