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「まっ…また魔物が出たの…?」 オレ以外はみんな、前後の状況を把握しているようで。狼狽えるオレを他所に、素早く陣形を取り。 鋭い表情で、辺りを警戒するから… 「何か、来るぜ…」 ジーナが誰に言うでもなく、そう口にした瞬間だった。 「っ……!?」 突如、周囲の空気が一変し… その異様さは、オレでもはっきり判るくらい──── いや、オレだからこそ判る…というか。 これは… (また、あの空間…!) それは直近で体験したばかりの、魔族が造り出した歪な空間。 森の中は、元来の不気味さを更に増幅させ。 外界を…ブツリと遮断していく。 「魔族の術中に、取り込まれたみたいだね…。」 告げるロロが、悔しげに眉をひそめる。 ロロほどの術者が、全く気付けなかったということは…の実力は、相当なものなのかもしれない。 「ティンカ…」 異空間から微かに感じ取れる魔力の気配で。 なんとなくだけど、術者が誰なのかが判るような気がして。 無意識に名を口にすると… 「ハズレ…じゃないけど、ティンカはいないよ~。」 「っ…!!」 場違いな声音に弾かれ、見上げた先。 その木の上にはふたつの影が見えて… 「お前達は…」 声を聞いた時点で、気付いてはいたけど。 その主は魔族の双子の少年、ルナーとコナーであり。 相変わらずの無邪気でいて酷く冷めた笑顔を、此方へと向けていた。 「…やはり魔族は、信用なりませんね。」 想定内とばかりにヴィンは嘆息する。 ラルゴからは魔王城での対決まで手は出さないと、約束されてはいたものの…。ティンカの一件もあってか、端から疑っていたようだが。 あれはティンカが独断で動いていただけだったし…。双子の性格を考えたら、これもその可能性が高い気がするんだけど…。 「言っとくけど、ジーク達には内緒で来てるんだから。勘違いしないでね?」 「ボクらがお前らと遊びたいって言ったら、ティンカが手伝ってくれだんだよね~。」 やっぱりオレの予想通り。 ルナーとコナーは律儀にそう答えて。 しかしティンカの姿は見当たらないから… ジークの時同様、何処か離れた場所で術を使ってるのかもしれない。 「一応、殺さない程度に遊んであげるけど…」 にやりと笑うルナーに、コナーはオレ達を全く同じ顔で見下して。 「たまたま死んじゃったら、仕方ないよね?」 「な…」 まるで虫を躊躇なく踏み潰す子どものように。 あどけなく笑ってみせる双子に、思わずゾッとするも… 「お前のせいで、ティンカがずうっと落ち込んでるからさー…」 「神子がいなくなれば、きっと喜ぶと思うんだ~。」 向けられた殺意より、こんな幼い子どもが平気で残酷な言葉を口にしている事実が、なんだか悲しくて…。 ラルゴの人情味のある印象もあったから。 魔族と神子の関係性を考えると…すごくやるせなかった。

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