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「へっ…上等じゃねーか…」 煽るように手招きされ、ジーナも相手に習って真紅の炎を拳に纏わせる。 そこから数秒間ほど、睨み合っていたふたりだったが…残像をその場に残した刹那、両者は互いの拳を振りかざしていた。 「はあッ…!」 「っらぁ…!」 拳を覆う魔力がぶつかると弾かれて。 衝撃が風となり、ここまで走り抜ける。 牽制で放った一撃後、ジーナとコナーは高く跳躍して地を踏んだかと思えば…第二撃を既に繰り出し。 その打ち合いは目にも止まらぬ速さで以て、乱打戦に発展していく。 正直オレなんかじゃ、何が起きてるのかさえ儘ならないほどで。ふたりは無造作に立ちはだかる木々の隙間を、器用にも走り抜けては攻防を繰り広げていた。 「余所見してたら危ないよ~?」 「っ…!!」 オレがジーナ達に目を奪われている間も、ルナーの呼び出した魔物が次々と襲い掛かり。 ルー達はオレを庇いつつ、器用に応戦する。 「ちょっとおかしいね、ココ…」 珍しく舌打ちするロロは魔術に長けている分、この異空間に対し何かを感じとっているのか… ぽつりとぼやきながら、額に汗を滲ませた。 「コイツら、今までとは段違いだぞっ…!」 シロエさんがリザードの剣を交わし叫ぶ。 同様に戦うベルさんとカナタさんも、なんだか苦戦を強いられているようで。 その原因は… (この空間の所為…か?) 魔王城には結界があるはずだから、この辺りにも聖域の恩恵があるわけで…瘴気もそれほど多くないし、本来なら魔物の力も抑えられているはずだ。 なのにだけは、例外なようで… 現に今、辺りにはそれが濃く感じられている。 魔族達の話だと、この術では瘴気が満ちた空間…つまりは魔族が有利に戦える状況を、擬似的に作り出しているらしいから。 相手が子どもの、ルナーとコナーだけであっても。油断は禁物…なのかもしれない。 「焦らず確実に仕留めるんだ!絶対に抜かれるなよ…!」 オリバーさんが叱咤し、一撃でウォーウルフを両断すれば。3人の騎士もすぐに形勢を建て直していく。 「援護するよ…!」 隣でオレを守護するアシュが、魔法を発動させると。忽ちみんなの身体が小麦色の光に包まれて。 オレ自身も淡く光だし、なんだか体が軽くなったような感覚を覚えるから…。 これがアシュの得意とする補助魔法なのだと解る。 「フン…そんなの悪あがきだよ!」 対するルナーは鼻で笑い、更に烏をけしかけてくるけれど… 「させない…!」 悪条件な立地でありながら、ロロが術を解き放つと。 『ギィアアア…!!』 生み出された光の刃は、烏達を的確に貫き。 取り零すことなく次々と絶命させていった。 思わず苦虫を噛み潰すルナー。 「まだ…こんなもんじゃないから…!」 悔しげにロロを睨み付けるも、余裕さは消えないルナー。 「この中なら、ボクらの魔力もそうそう尽きないからね。」 吐き捨て更なる魔物を召喚し出す。 もしそれが本当なら… この空間は、かなりの反則技なんじゃないだろうか。 「ならば、大元を絶つしかないですね。」 いつもなら支援役に徹することが多いヴィンが、積極的に前へと押し通り。細剣で以て、鮮やかに烏を葬っていく。 同時に構えた二本指に魔力を集めると… 魔物を素早く掻い潜り、ルナーの隙を突いて発動させた、氷の刃を解き放つ。 「ちっ…」 『ギャアアア…!!』 けれどルナーは、ギリギリのところで烏の群れを自身の周りへと展開させ…それを盾にしてしまい。 ヴィンが放った氷の刃は、烏達を貫くのみに留まった。

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