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⑧
「へっ…上等じゃねーか…」
煽るように手招きされ、ジーナも相手に習って真紅の炎を拳に纏わせる。
そこから数秒間ほど、睨み合っていたふたりだったが…残像をその場に残した刹那、両者は互いの拳を振りかざしていた。
「はあッ…!」
「っらぁ…!」
拳を覆う魔力がぶつかると弾かれて。
衝撃が風となり、ここまで走り抜ける。
牽制で放った一撃後、ジーナとコナーは高く跳躍して地を踏んだかと思えば…第二撃を既に繰り出し。
その打ち合いは目にも止まらぬ速さで以て、乱打戦に発展していく。
正直オレなんかじゃ、何が起きてるのかさえ儘ならないほどで。ふたりは無造作に立ちはだかる木々の隙間を、器用にも走り抜けては攻防を繰り広げていた。
「余所見してたら危ないよ~?」
「っ…!!」
オレがジーナ達に目を奪われている間も、ルナーの呼び出した魔物が次々と襲い掛かり。
ルー達はオレを庇いつつ、器用に応戦する。
「ちょっとおかしいね、ココ…」
珍しく舌打ちするロロは魔術に長けている分、この異空間に対し何かを感じとっているのか…
ぽつりとぼやきながら、額に汗を滲ませた。
「コイツら、今までとは段違いだぞっ…!」
シロエさんがリザードの剣を交わし叫ぶ。
同様に戦うベルさんとカナタさんも、なんだか苦戦を強いられているようで。
その原因は…
(この空間の所為…か?)
魔王城には結界があるはずだから、この辺りにも聖域の恩恵があるわけで…瘴気もそれほど多くないし、本来なら魔物の力も抑えられているはずだ。
なのにこの中だけは、例外なようで…
現に今、辺りにはそれが濃く感じられている。
魔族達の話だと、この術では瘴気が満ちた空間…つまりは魔族が有利に戦える状況を、擬似的に作り出しているらしいから。
相手が子どもの、ルナーとコナーだけであっても。油断は禁物…なのかもしれない。
「焦らず確実に仕留めるんだ!絶対に抜かれるなよ…!」
オリバーさんが叱咤し、一撃でウォーウルフを両断すれば。3人の騎士もすぐに形勢を建て直していく。
「援護するよ…!」
隣でオレを守護するアシュが、魔法を発動させると。忽ちみんなの身体が小麦色の光に包まれて。
オレ自身も淡く光だし、なんだか体が軽くなったような感覚を覚えるから…。
これがアシュの得意とする補助魔法なのだと解る。
「フン…そんなの悪あがきだよ!」
対するルナーは鼻で笑い、更に烏をけしかけてくるけれど…
「させない…!」
悪条件な立地でありながら、ロロが術を解き放つと。
『ギィアアア…!!』
生み出された光の刃は、烏達を的確に貫き。
取り零すことなく次々と絶命させていった。
思わず苦虫を噛み潰すルナー。
「まだ…こんなもんじゃないから…!」
悔しげにロロを睨み付けるも、余裕さは消えないルナー。
「この中なら、ボクらの魔力もそうそう尽きないからね。」
吐き捨て更なる魔物を召喚し出す。
もしそれが本当なら…
この空間は、かなりの反則技なんじゃないだろうか。
「ならば、大元を絶つしかないですね。」
いつもなら支援役に徹することが多いヴィンが、積極的に前へと押し通り。細剣で以て、鮮やかに烏を葬っていく。
同時に構えた二本指に魔力を集めると…
魔物を素早く掻い潜り、ルナーの隙を突いて発動させた、氷の刃を解き放つ。
「ちっ…」
『ギャアアア…!!』
けれどルナーは、ギリギリのところで烏の群れを自身の周りへと展開させ…それを盾にしてしまい。
ヴィンが放った氷の刃は、烏達を貫くのみに留まった。
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