318 / 423
⑨
「意気込んだわりに、大したことなかったね~。」
「…まだ終わってはいませんよ。」
嘲笑うルナーを尻目に、ヴィンは至って冷静に返して。
再度攻撃の機械を伺うが…リザードとウォーウルフの猛襲に阻まれ、なかなか思うようには動けないみたいだ。
「加勢するッスよ!」
そこにシロエさんが参戦し、
多少優位な展開へと傾いたように見えたのだけど…
「じゃあ、これならどうかなぁ…?」
ルナーがほくそ笑み、新たな魔法を発動させたら。
「うおっ…なんだコレっ…」
「っ…!!離れて下さい!」
叫ぶヴィンは、察して素早く後退したが。
最前線にいたシロエさんは、一瞬反応が遅れため…間に合わず。
「くッ…」
彼の周りには、無数の黒蝶が瞬く間に現れ…
それらがひらり羽ばたくと、辺り一帯に灰のような鱗粉を撒き散らし始めた。
「セツっ…しばらく息を止めていろ!」
「え…う、んうっ…!?」
ルーに言われ、慌てて鼻と口を両手で塞ぐ。
その間にルーは一瞬で風の障壁を作り出し。
鱗粉がこっちに舞って来ないよう、それで遮断する。
「シロエ!」
オリバーさんも魔法で雷を放電させ、シロエさんの周りに浮遊する蝶を一気に粉砕していくけれど…
「だん、ちょ…」
鱗粉をまともに吸い込んでしまったシロエさんは、無情にもその場に膝を付いてしまい…
倒れる寸前、駆け寄るオリバーさんが彼を抱き止めた。
「バカ野郎…油断しやがって…」
叱咤しながらも、ベルさんは悔しげにシロエさんの元へと駆け寄り。
オリバーさんに代わって彼の身を抱き抱えると。
叫ぶアシュの指示に従い、急ぎオレ達がいる場所まで退避する。
「シロエさん、しっかりして…!」
「セツ殿…すんません…」
運ばれてきた彼の顔色は酷く青ざめていて。
異常なほど汗をかき…呼吸もすごく苦しそうで、荒々しかった。
「これはまずいね…毒の回りがかなり速い…」
アシュが警戒しながら、シロエさんの容態を確認してくれるけれど。すぐに顔を曇らせてしまい…更には、
「ふふっ…早くしないと、ソイツ死んじゃうかもよ~?」
「なっ…!?」
ルナーが不安を煽るよう、笑い飛ばしてくるもんだから。
(毒なんて、治せるのか…?)
怪我なら何度も治してきたけど、解毒なんてまだ未知の領域だから。苦痛に歪むシロエさんを前に、オレは固まってしまう。
「ホラホラ、休む暇なんて与えないよ~!」
「チッ…!」
「セツ殿とシロエを守るんだ!」
その間にも、ルナーは魔物をけしかけ、コナーはジーナが今もずっと応戦していて。この異空間だと、みんな思うように戦えないみたいだったし。
加えてオレと、毒に倒れたシロエさんを庇いながらとなれば防戦しきり。攻めることさえ儘ならなくなり…。
「クソっ…セツ殿、少しだけコイツを頼んます!」
「あ、はいっ…!」
ルーが蝶の進行を留めてくれてはいるものの、先程の烏達も襲いくる中で。ベルさんは仕方なくシロエさんをオレに託すと、皆の加勢に戻っていく。
オレに支えられるシロエさんの顔色は、更に紫がかり。呼吸も乱れてきてるから…
ルナーが言い通り、早く手を打たないと…
かなりヤバいのかもしれない。
ともだちにシェアしよう!