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⑩
「シロエさんっ、シロエさんっ…」
「へへ…すんません、セツ殿…」
オレは半泣きで声を掛けることしか出来なくて。
すると彼は、いつものように人懐っこい笑顔で答えるものだから…。余計に胸が締め付けられる。
(どうしよう…なんとかしないとっ…)
このままじゃ彼も危険だし。
悪条件下での戦いも打開しなくちゃ…ルー達だって、無事では済まないかもしれない。
焦る気持ちを抑え、
何か方法はないかと、頭の中で模索していると…
「セツっ…!!」
ルーの声に弾かれ仰ぎ見れば。
狼が一匹、包囲網をすり抜け襲ってくるのが見えて。
反射的にシロエさんを庇おうとしたのだけれど────
「特級騎士を……舐めんなよッ!!」
逆にオレが、シロエさんの腕に抱かれるように引かれ。彼は握っていた剣を、力強く横へと振りかざすと…
その魔物を、間一髪のところで凪払った。
「神子を護んのが、俺の役目…なんだよっ…!」
「シロエさんっ…!」
ガクンと崩れ落ちる、シロエさんの身体を必死で抱えるも…体格差によろけそうになり。
「セツ…大丈夫か…!」
「ルー…!」
それをルーが、寸でで支えてくれたおかげで。
オレはほっと胸を撫で下ろす。
「どうしよう…シロエさんがっ…」
ルーの顔を見たら、急に震えが止まらなくなってしまい…つい泣きそうになっちゃうけど。
「落ち着くんだ…セツ、お前は神子だろう?」
「う、うんっ…」
ルーはオレを穏やかな声で宥めると、周囲を気にしつつ告げる。
「このままでは埒が明かない。だからセツが、この状況を変えてくれないか?」
「え…?」
ティンカが作り出したであろう異空間を、打ち消せやしないかと。ルーはじっとオレを見据え、問う。
「でも、オレっ…」
「ジークリッドの時も…あれはセツの力があればこそ、私はあの空間内へと入る事が出来たのだから。」
ああ、そっか…
冷静になって考えたら、意外と簡単だったんだ。
(オレがやらなきゃ…)
ただ隅っこで怯えてるだけじゃ、ダメなんだ。
オレは神子だし。シロエさんもルーもみんな…
オレを守るために、戦ってくれてるんだから。
「分かった、やってみる…」
「よし…セツの守護は、私に任せてくれ。」
強く頷けば、ルーも応えて剣を掲げ。
「シロエさん、ちょっとだけ待っててね…。」
「俺もっ、貴方を…護ります、から…!」
剣を杖代わりに、シロエさんもニッと笑ってみせた。
(集中しなきゃ…)
無防備になるけど、きっと大丈夫。
オレは安心して目を閉じる。
意識してやるのは初めてだから、上手くいくかは分からないけど。なんとなく、やれそうな気がして。
(この異質な空間を…)
打ち消して、と。心の奥底で強く強く願う。
そうすればオレ達を囲うモノの形までもが、はっきりと。頭の中に浮かび上がってくるから…
「お願い…」
みんなを守るために。
純粋な想いを祈りに乗せる。
すると女神様は、ちゃんと応えてくれて。
「なん、でっ…」
オレの身体が光り出したのと、同じくして。
辺りから、硝子が砕けるかのような音が響き渡り。宙に亀裂が走ると、そこから光が溢れてくる。
すると、あんなに満ちていた瘴気も徐々に薄まっていくのが判り…。驚愕するルナーは目を見開きながら、辺りを見渡した。
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