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「シロエさんっ、シロエさんっ…」 「へへ…すんません、セツ殿…」 オレは半泣きで声を掛けることしか出来なくて。 すると彼は、いつものように人懐っこい笑顔で答えるものだから…。余計に胸が締め付けられる。 (どうしよう…なんとかしないとっ…) このままじゃ彼も危険だし。 悪条件下での戦いも打開しなくちゃ…ルー達だって、無事では済まないかもしれない。 焦る気持ちを抑え、 何か方法はないかと、頭の中で模索していると… 「セツっ…!!」 ルーの声に弾かれ仰ぎ見れば。 狼が一匹、包囲網をすり抜け襲ってくるのが見えて。 反射的にシロエさんを庇おうとしたのだけれど──── 「特級騎士を……舐めんなよッ!!」 逆にオレが、シロエさんの腕に抱かれるように引かれ。彼は握っていた剣を、力強く横へと振りかざすと… その魔物を、間一髪のところで凪払った。 「神子を護んのが、俺の役目…なんだよっ…!」 「シロエさんっ…!」 ガクンと崩れ落ちる、シロエさんの身体を必死で抱えるも…体格差によろけそうになり。 「セツ…大丈夫か…!」 「ルー…!」 それをルーが、寸でで支えてくれたおかげで。 オレはほっと胸を撫で下ろす。 「どうしよう…シロエさんがっ…」 ルーの顔を見たら、急に震えが止まらなくなってしまい…つい泣きそうになっちゃうけど。 「落ち着くんだ…セツ、お前は神子だろう?」 「う、うんっ…」 ルーはオレを穏やかな声で宥めると、周囲を気にしつつ告げる。 「このままでは埒が明かない。だからセツが、この状況を変えてくれないか?」 「え…?」 ティンカが作り出したであろう異空間を、打ち消せやしないかと。ルーはじっとオレを見据え、問う。 「でも、オレっ…」 「ジークリッドの時も…あれはセツの力があればこそ、私はあの空間内へと入る事が出来たのだから。」 ああ、そっか… 冷静になって考えたら、意外と簡単だったんだ。 (オレがやらなきゃ…) ただ隅っこで怯えてるだけじゃ、ダメなんだ。 オレは神子だし。シロエさんもルーもみんな… オレを守るために、戦ってくれてるんだから。 「分かった、やってみる…」 「よし…セツの守護は、私に任せてくれ。」 強く頷けば、ルーも応えて剣を掲げ。 「シロエさん、ちょっとだけ待っててね…。」 「俺もっ、貴方を…護ります、から…!」 剣を杖代わりに、シロエさんもニッと笑ってみせた。 (集中しなきゃ…) 無防備になるけど、きっと大丈夫。 オレは安心して目を閉じる。 意識してやるのは初めてだから、上手くいくかは分からないけど。なんとなく、やれそうな気がして。 (この異質な空間を…) 打ち消して、と。心の奥底で強く強く願う。 そうすればオレ達を囲うモノの形までもが、はっきりと。頭の中に浮かび上がってくるから… 「お願い…」 みんなを守るために。 純粋な想いを祈りに乗せる。 すると女神様は、ちゃんと応えてくれて。 「なん、でっ…」 オレの身体が光り出したのと、同じくして。 辺りから、硝子が砕けるかのような音が響き渡り。宙に亀裂が走ると、そこから光が溢れてくる。 すると、あんなに満ちていた瘴気も徐々に薄まっていくのが判り…。驚愕するルナーは目を見開きながら、辺りを見渡した。

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