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⑪
「ルナー…!」
「余所見してんなよ!」
木の上で取り乱す片割れを認め、コナーが向かおうとするものの。ジーナが蹴りを繰り出し、足止めする。
それをギリギリ腕で受け止めたコナーは、忌々しげに舌打ちして。蹴りを弾いた反動と共に後退し、逃れていった。
「魔物は弱体化している…!一気に畳み掛けるんだ!」
ルーの一声でロロとヴィン、そしてオリバーさん達が攻めに転じる。
言われた通り、魔物は瘴気を失い動きが鈍くなっていて。好機とばかりに、みんなは次々と魔物を捩じ伏せていくから…
「後はお前らだけ、みてぇだな?」
形勢はあっという間に逆転し、コナーと対峙するジーナがニヤリと笑う。
「キミも、そろそろ降りて来たら?」
「くっ…」
ロロが風を操り駆け出したかと思えば、高く跳躍して。ルナーがいる木の高さまで迫る。
ルナーは一瞬、びくりと肩を震わせたが────…
「ロロッ…!」
何かを察知したルーが素早く魔法で風を興し、それによってロロの身体は煽られ、ぐらり傾く。と…
次にはロロが元いた場所を、黒い刃が猛スピードで横切っていった。
「ッ…!」
刃はロロの頬と髪を僅かに切り裂き、バランスを崩す身体は宙に投げ出されはしたものの…
自ら体制を立て直し、無事に着地してみせる。
「おっと…!」
…と、今度はコナーに攻撃を仕掛けていたジーナの元にも、同様の刃が襲い掛かってきており。
難なく避けることは出来ても、コナーとの距離はまた引き離されてしまい。
『ルナー、コナー…』
謎の刃に皆が警戒を強めていたら、
何処からともなく、双子を呼ぶ声が響き渡り…
「ふん…今日はここまでにしといてあげるよ。」
歯痒そうにしながらコナーが吐き捨てると。
少年の身体が突如、闇に溶け込むように消え始めた。
「早く城まで来なよ…次は絶対に殺してやるから。」
ルナーもまた物騒な台詞を残し、あっという間に消えてしまう。
「ティンカ…」
先程までの戦いが嘘のよう、辺りは元の姿を見せ。
森のざわめきとそよ風が、オレの横を吹き抜ける。
双子を呼んだ声…
黒い刃を放った主は間違いなく、あのティンカだろう。
けど、今はそれを気にしている場合じゃなくて。
「シロエさんっ…!」
途端に力無く倒れてしまったシロエさんに、手を伸ばすと…みんなも武器を納め、急いで此方へと駆け寄る。
「毒性が強いから、ボクの魔法じゃ治せないね…。薬も手持ちじゃ応急にもならないだろうし…」
ロロが状態を診てくれるけれど、悔しげに首を振るから。
「セツ…」
オレは苦しげに横たわる、シロエさんの手を握り締め…ぎゅっと目を閉じた。
治癒と解毒の違いは解らないし。
根本的な魔法の知識だって、まだまだひよっこなオレだけど…
(大丈夫、やれるはずだ…)
やらなければ。
このままじゃ、シロエさんは助からないかもしれない。だったら、
「お願い…」
彼の身体を汚すものを祓うために。
内に抱く力を握る手に集め、そこから彼へと流れ込ませるようイメージしていく。
すると…
「すごい…毒が、消えてくよ…」
オレとシロエさんの身体が、淡く光り出したかと思えば。彼の方から、黒い煙のようなものが立ち昇り…清らかな光の粒子に押し出されるよう、霧散していく。
しばらくすると、黒い毒の煙は徐々に薄くなっていき…
「んぅ…」
「シロエ…!」
瞼をぴくりと揺らし、目覚めたシロエさんは。
なんともバツが悪そうに、苦笑を浮かべるので。
安堵するオリバーさんと同僚騎士ふたりは、ほっとしたよう…安堵の息を漏らした。
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