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「ルナー…!」 「余所見してんなよ!」 木の上で取り乱す片割れを認め、コナーが向かおうとするものの。ジーナが蹴りを繰り出し、足止めする。 それをギリギリ腕で受け止めたコナーは、忌々しげに舌打ちして。蹴りを弾いた反動と共に後退し、逃れていった。 「魔物は弱体化している…!一気に畳み掛けるんだ!」 ルーの一声でロロとヴィン、そしてオリバーさん達が攻めに転じる。 言われた通り、魔物は瘴気を失い動きが鈍くなっていて。好機とばかりに、みんなは次々と魔物を捩じ伏せていくから… 「後はお前らだけ、みてぇだな?」 形勢はあっという間に逆転し、コナーと対峙するジーナがニヤリと笑う。 「キミも、そろそろ降りて来たら?」 「くっ…」 ロロが風を操り駆け出したかと思えば、高く跳躍して。ルナーがいる木の高さまで迫る。 ルナーは一瞬、びくりと肩を震わせたが────… 「ロロッ…!」 何かを察知したルーが素早く魔法で風を興し、それによってロロの身体は煽られ、ぐらり傾く。と… 次にはロロが元いた場所を、黒い刃が猛スピードで横切っていった。 「ッ…!」 刃はロロの頬と髪を僅かに切り裂き、バランスを崩す身体は宙に投げ出されはしたものの… 自ら体制を立て直し、無事に着地してみせる。 「おっと…!」 …と、今度はコナーに攻撃を仕掛けていたジーナの元にも、同様の刃が襲い掛かってきており。 難なく避けることは出来ても、コナーとの距離はまた引き離されてしまい。 『ルナー、コナー…』 謎の刃に皆が警戒を強めていたら、 何処からともなく、双子を呼ぶ声が響き渡り… 「ふん…今日はここまでにしといてあげるよ。」 歯痒そうにしながらコナーが吐き捨てると。 少年の身体が突如、闇に溶け込むように消え始めた。 「早く城まで来なよ…次は絶対に殺してやるから。」 ルナーもまた物騒な台詞を残し、あっという間に消えてしまう。 「ティンカ…」 先程までの戦いが嘘のよう、辺りは元の姿を見せ。 森のざわめきとそよ風が、オレの横を吹き抜ける。 双子を呼んだ声… 黒い刃を放った主は間違いなく、あのティンカだろう。 けど、今はそれを気にしている場合じゃなくて。 「シロエさんっ…!」 途端に力無く倒れてしまったシロエさんに、手を伸ばすと…みんなも武器を納め、急いで此方へと駆け寄る。 「毒性が強いから、ボクの魔法じゃ治せないね…。薬も手持ちじゃ応急にもならないだろうし…」 ロロが状態を診てくれるけれど、悔しげに首を振るから。 「セツ…」 オレは苦しげに横たわる、シロエさんの手を握り締め…ぎゅっと目を閉じた。 治癒と解毒の違いは解らないし。 根本的な魔法の知識だって、まだまだひよっこなオレだけど… (大丈夫、やれるはずだ…) やらなければ。 このままじゃ、シロエさんは助からないかもしれない。だったら、 「お願い…」 彼の身体を汚すものを祓うために。 内に抱く力を握る手に集め、そこから彼へと流れ込ませるようイメージしていく。 すると… 「すごい…毒が、消えてくよ…」 オレとシロエさんの身体が、淡く光り出したかと思えば。彼の方から、黒い煙のようなものが立ち昇り…清らかな光の粒子に押し出されるよう、霧散していく。 しばらくすると、黒い毒の煙は徐々に薄くなっていき… 「んぅ…」 「シロエ…!」 瞼をぴくりと揺らし、目覚めたシロエさんは。 なんともバツが悪そうに、苦笑を浮かべるので。 安堵するオリバーさんと同僚騎士ふたりは、ほっとしたよう…安堵の息を漏らした。

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