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⑤
「セツ…」
「ルー、オレっ…」
ルーに呼ばれ、ドキリとして肩を揺らす。
お願いだから置いてかないで、オレをお前の傍にいさせて────言葉にならない思いを、見つめるその視線だけで切に訴えたなら。
「そうだな…」
「るっ……え─────」
徐に、ルーファスがオレへと両手を伸ばし。
なんだろう?…と不安に駆られながらも、成り行きに任せていたら。
ふわりとオレの身体は、浮かび上がっていて…
「ちょっ…る、ルー…」
「これならば問題無いだろう?」
いやいやいや…問題ならメチャクチャありますけど!?
何故ならば、だ。
ルーはいつぞやの神淵の森の時みたく、オレをひょいとお姫様抱っこしてきて。悪戯に微笑んだかと思えば、当然のように歩き始めたもんだから…
何がなにやら動揺するオレは、ジタバタと抗ってみたのだけど…
「こっこんなの無理だろ…オレ重いしっ…」
「以前も話したが…この程度ならば、大した負担にはならないし。セツが歩くより遥かに先へ、進めると思うぞ?」
何なら、抱きっぱなしで徹夜しても歩けるだとか…
さっきまでの厳しい雰囲気は何処へやら。
問題は解決したなと、晴れやかな表情を向けられて。
抱っこされるがままのオレは、なんというか…開いた口が塞がらない。
だからといって、これ以上の策が浮かぶわけでもなく…当の本人は楽勝だって言い切るもんだから。
ぐうの音も出せないオレに。
拒否権なんて、端から無いんだけども…。
「せっ…せめておんぶにしてよ~!」
いくらなんでも森の中を、お姫様抱っこで移動するのは恥ずかし過ぎるので。妥協案を訴える。
更に…
「いいなぁ~いっつもルーばっかり。ボクもセツのこと抱っこしたいなぁ…。」
「ふふ、そうだねぇ。僕もセツなら大歓迎なんだけどねぇ。」
ロロとアシュが、そんなことを話していたので。
(ルーが平気だって言っても、さすがにひとりでずっとなんて、物理的に無理あるよね…?)
訓練で鍛えてようが、魔物だって襲ってくるんだし…ロロ達もああ言ってるんだから。
「待ってルー!ちょっと下ろしてっ…」
「ん?」
とりあえず一度解放してもらうと、
ルーはなんとも不服そうに見下ろしてくるのだが…
「いや…運んでもらうのは、この際受け入れるとして。だ…」
体力的に限界なのは、オレが一番解ってるし。
どのみち受け入れるしかないっていうならば。
「ルーにだけ抱っこしてもらうのは、かなり負担になるだろ?」
「…?私なら何の問題も無いが…」
いいからと、ルーの口を遮り続ける。
「だったらさ、そのっ…みんなにも、お願い出来ないかなぁ~って…」
『え…?』
…要は交代制でみんなにおぶってもらえば、疲労も分散されるだろうし?…と、苦し紛れにも提案してみると。
案の定、ルーは表情を曇らせたのだが…。
「さんせいさんせ~い!ボクもセツをお姫様抱っこしたいもん~!」
「良いんじゃねぇか?セツくらい、俺も余裕だし…。」
年少組は思いの外やる気を見せ、アシュやオリバーさん達も二つ返事で了承してくれた。
ルーは最後まで不満げだったが…
「セツの言う通り、分担した方が移動の効率も上がるでしょう。」
正論ですねとヴィンにまで認められては、何も言い返せなくなり。
渋々ではあるものの、ルーもオレの提案を受け入れてくれるのだった。
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