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「セツ…」 「ルー、オレっ…」 ルーに呼ばれ、ドキリとして肩を揺らす。 お願いだから置いてかないで、オレをお前の傍にいさせて────言葉にならない思いを、見つめるその視線だけで切に訴えたなら。 「そうだな…」 「るっ……え─────」 徐に、ルーファスがオレへと両手を伸ばし。 なんだろう?…と不安に駆られながらも、成り行きに任せていたら。 ふわりとオレの身体は、浮かび上がっていて… 「ちょっ…る、ルー…」 「これならば問題無いだろう?」 いやいやいや…問題ならメチャクチャありますけど!? 何故ならば、だ。 ルーはいつぞやの神淵の森の時みたく、オレをひょいとお姫様抱っこしてきて。悪戯に微笑んだかと思えば、当然のように歩き始めたもんだから… 何がなにやら動揺するオレは、ジタバタと抗ってみたのだけど… 「こっこんなの無理だろ…オレ重いしっ…」 「以前も話したが…この程度ならば、大した負担にはならないし。セツが歩くより遥かに先へ、進めると思うぞ?」 何なら、抱きっぱなしで徹夜しても歩けるだとか… さっきまでの厳しい雰囲気は何処へやら。 問題は解決したなと、晴れやかな表情を向けられて。 抱っこされるがままのオレは、なんというか…開いた口が塞がらない。 だからといって、これ以上の策が浮かぶわけでもなく…当の本人は楽勝だって言い切るもんだから。 ぐうの音も出せないオレに。 拒否権なんて、端から無いんだけども…。 「せっ…せめておんぶにしてよ~!」 いくらなんでも森の中を、お姫様抱っこで移動するのは恥ずかし過ぎるので。妥協案を訴える。 更に… 「いいなぁ~いっつもルーばっかり。ボクもセツのこと抱っこしたいなぁ…。」 「ふふ、そうだねぇ。僕もセツなら大歓迎なんだけどねぇ。」 ロロとアシュが、そんなことを話していたので。 (ルーが平気だって言っても、さすがにひとりでずっとなんて、物理的に無理あるよね…?) 訓練で鍛えてようが、魔物だって襲ってくるんだし…ロロ達もああ言ってるんだから。 「待ってルー!ちょっと下ろしてっ…」 「ん?」 とりあえず一度解放してもらうと、 ルーはなんとも不服そうに見下ろしてくるのだが… 「いや…運んでもらうのは、この際受け入れるとして。だ…」 体力的に限界なのは、オレが一番解ってるし。 どのみち受け入れるしかないっていうならば。 「ルーにだけ抱っこしてもらうのは、かなり負担になるだろ?」 「…?私なら何の問題も無いが…」 いいからと、ルーの口を遮り続ける。 「だったらさ、そのっ…みんなにも、お願い出来ないかなぁ~って…」 『え…?』 …要は交代制でみんなにおぶってもらえば、疲労も分散されるだろうし?…と、苦し紛れにも提案してみると。 案の定、ルーは表情を曇らせたのだが…。 「さんせいさんせ~い!ボクもセツをお姫様抱っこしたいもん~!」 「良いんじゃねぇか?セツくらい、俺も余裕だし…。」 年少組は思いの外やる気を見せ、アシュやオリバーさん達も二つ返事で了承してくれた。 ルーは最後まで不満げだったが… 「セツの言う通り、分担した方が移動の効率も上がるでしょう。」 正論ですねとヴィンにまで認められては、何も言い返せなくなり。 渋々ではあるものの、ルーもオレの提案を受け入れてくれるのだった。

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