332 / 423
⑪
「では、失礼して…」
「わわっ…」
ひょいと難なく両手で抱えられ、すぐ真上にオリバーさんの甘いマスクが近付く。
周囲が俄 にざわついた気がしたけれど…
(これは────…ルー、怒るかなぁ…)
触らぬ神に祟りなし。
敢えて見ないように、オレはオリバーさんの胸元に隠れるよう俯いた。
「…………」
「ハイハイ。そんな怖い顔してはいけませんよ、ルーファス。」
見なくても判るんですけど…
背後ではヴィンとアシュの、何やら宥めるような会話が聞こえてきたので。
これは本格的に、ご機嫌取りしなきゃだなぁ…と。
オレは内で溜め息を吐いた。
「すみませんっ…オリバーさんにまで、こんなことさせて…」
同じ隊の部下だって見てる前でさ…
仮にもオリバーさんは特級騎士団の中でも、頂点に君臨するとまで言われるようなスゴい人なのに。
神子の守護を特例で引き受けて…実際はオレなんかの所為で、こんな雑な扱いしちゃって。
これじゃあ威厳もへったくれも、あったもんじゃないよね…。
「いえ、セツ殿とこうして共にいられることこそが、騎士の…私にとっての誉なのですから。」
照れくさそうに告げられ、ドキリとさせられる。
いやぁ…今の台詞、オリバーさんみたいな人から言われたらさ。誰だってそうなるよね?
「あっ…オリバーさんは、神子と守護騎士に憧れてましたもんねっ…」
その神子がオレなんかで申し訳ないですけど…。
今の台詞だと、勘違いしちゃいそうな言い方だったから。
照れ隠しに、そう切り返したんだけど。
当のオリバーさんは至って真剣に、まっすぐ前を見据え答えた。
「私は、神子がセツ殿だったからこそ。そう…思えるのですよ。」
「っ……!」
なんだろう…この人は所作とか言動とか、前からルーに似てるなぁとは思ってたけど。
(ややっ…違うでしょ?あり得ないってば…)
改めて思い返してみれば、色々と重なる部分が多くて…戸惑う。
(だってオリバーさんだよ?それにオレ、男だしっ…)
あ───…それは関係無いのかな。
けど…それ差し引いても、こんな完璧な人がオレなんかに…あるわけが無いよね?
だからこれはきっとアレ…無自覚ってやつだ。
見た目も男前なら、中身もそうなだけであって。
ありのまま思ったことを、直球で言っちゃう人だから。相手を意味なく勘違いさせてしまうという…
ともあれ、どうも落ち着かないので。
そう結論付けて、無理矢理に納得させてみる。
ともだちにシェアしよう!