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「では、失礼して…」 「わわっ…」 ひょいと難なく両手で抱えられ、すぐ真上にオリバーさんの甘いマスクが近付く。 周囲が(にわか)にざわついた気がしたけれど… (これは────…ルー、怒るかなぁ…) 触らぬ神に祟りなし。 敢えて見ないように、オレはオリバーさんの胸元に隠れるよう俯いた。 「…………」 「ハイハイ。そんな怖い顔してはいけませんよ、ルーファス。」 見なくても判るんですけど… 背後ではヴィンとアシュの、何やら宥めるような会話が聞こえてきたので。 これは本格的に、ご機嫌取りしなきゃだなぁ…と。 オレは内で溜め息を吐いた。 「すみませんっ…オリバーさんにまで、こんなことさせて…」 同じ隊の部下だって見てる前でさ… 仮にもオリバーさんは特級騎士団の中でも、頂点に君臨するとまで言われるようなスゴい人なのに。 神子の守護を特例で引き受けて…実際はオレなんかの所為で、こんな雑な扱いしちゃって。 これじゃあ威厳もへったくれも、あったもんじゃないよね…。 「いえ、セツ殿とこうして共にいられることこそが、騎士の…私にとっての誉なのですから。」 照れくさそうに告げられ、ドキリとさせられる。 いやぁ…今の台詞、オリバーさんみたいな人から言われたらさ。誰だってそうなるよね? 「あっ…オリバーさんは、神子と守護騎士に憧れてましたもんねっ…」 その神子がオレなんかで申し訳ないですけど…。 今の台詞だと、勘違いしちゃいそうな言い方だったから。 照れ隠しに、そう切り返したんだけど。 当のオリバーさんは至って真剣に、まっすぐ前を見据え答えた。 「私は、神子がセツ殿だったからこそ。そう…思えるのですよ。」 「っ……!」 なんだろう…この人は所作とか言動とか、前からルーに似てるなぁとは思ってたけど。 (ややっ…違うでしょ?あり得ないってば…) 改めて思い返してみれば、色々と重なる部分が多くて…戸惑う。 (だってオリバーさんだよ?それにオレ、男だしっ…) あ───…それは関係無いのかな。 けど…それ差し引いても、こんな完璧な人がオレなんかに…あるわけが無いよね? だからこれはきっとアレ…無自覚ってやつだ。 見た目も男前なら、中身もそうなだけであって。 ありのまま思ったことを、直球で言っちゃう人だから。相手を意味なく勘違いさせてしまうという… ともあれ、どうも落ち着かないので。 そう結論付けて、無理矢理に納得させてみる。

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