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⑫
「オレはそんな、大した人間じゃあないですけどっ…」
「貴方は自らを顧みず、幾度となく我々の命を救ってきたではありませんか。私にとってセツ殿は、思い描いた神子以上に…尊き存在ですから。」
ダメだダメだ、これは敵わない…。
恥ずかしいどころの話じゃなく、オレは更に俯く。
だって顔が熱過ぎてヤバいんだもん…。
オリバーさんに他意はないのだろうけど。
こんな甘ったるいマスクで、ベタベタに褒められなんてされたら。
心臓に、悪過ぎるでしょ…。
「そっ…そんなオレを、甘やかさないで下さいよ~…」
これ以上は耐えられそうにないので。
降参だとばかりに、困り顔で唇を尖らせる。
そうするとオリバーさんも、困惑したよう眉根を下げてしまい…。
「別に甘やかすなど…私はただ、本心を述べたまでなのですが…。」
「ほらまたっ、そういうこと言う~…」
じとりと視線だけで見上げたら、
参ったなぁ…と苦笑いするオリバーさん。
いや、参ったのはオレの方ですけどね…。
「オリバーさんは見た目も中身も、反則レベルで男前なんですからっ。発言には責任を持ってくれないと…勘違いされて、すぐ惚れられちゃったりするんですから。気を付けて下さいね?」
「えっ…!?」
ぴしっとオリバーさんの頬を指で突っつき、忠告するオレに対し。
彼は目を丸くして、固まってしまうのだが───…
「それはっ、セツ殿も…」
「えっ…」
なんだか前にもあったような、妙に浮わついた空気に苛まれる羽目になり。ふたりでモヤモヤしていると…
「あっ、そろそろ交代の時間ッスね、オリバー団長~!」
『っ…!!』
時計を見ながら、シロエさんが場違いに陽気な声でブッた切ってくれたおかげで。
その場はなんとか、乗り切ったんだけども。
「では、私はこれで…」
「あっ…はい、お…お疲れ様でしたっ…!」
いそいそとオレを下ろし、一礼するオリバーさんに釣られ。オレもあたふたしながらお礼を述べる。
変な汗を掻きつつ…若干忙しない心臓を押さえながら、しばらく茫然としていると。
「ルー…」
スタスタと、此方へやって来る…不機嫌そうな目とかち合ってしまい。なんとも居たたまれなくなる。
「ちっ…違うからな、コレはっ…」
「な、なんの話だ…?」
そうコレはだからアレだ。美形で憧れの上司みたいな人から煽てられて、舞い上がってしまっただけであって。
別に意識したとか、そういうのじゃないんだから…。
ルーはいきなり言われ、当然ながら訳が判らず。
訝しげに見下ろしてくるけども。
「……………」
「…いや、無言で圧をかけないでよ…。」
オリバーさんが絡むと、ルーはすぐこうなるから…
オレは大きく溜め息ひとつ吐いて、両手を広げる。
「…ルーの番、だよね?ほら…抱っこしてよ?」
本来なら、こんなことするようなキャラじゃないんだけども。敢えて子どもっぽく、ねだるように見上げたら。
「…セツは、本当にズルいな…」
「え?」
口元を押さえ天を仰ぐルーは、なんでもないとぶっきらぼうに返すと。
望み通り、オレの身体を両手で軽々抱き上げてくれた。
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