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「オレはそんな、大した人間じゃあないですけどっ…」 「貴方は自らを顧みず、幾度となく我々の命を救ってきたではありませんか。私にとってセツ殿は、思い描いた神子以上に…尊き存在ですから。」 ダメだダメだ、これは敵わない…。 恥ずかしいどころの話じゃなく、オレは更に俯く。 だって顔が熱過ぎてヤバいんだもん…。 オリバーさんに他意はないのだろうけど。 こんな甘ったるいマスクで、ベタベタに褒められなんてされたら。 心臓に、悪過ぎるでしょ…。 「そっ…そんなオレを、甘やかさないで下さいよ~…」 これ以上は耐えられそうにないので。 降参だとばかりに、困り顔で唇を尖らせる。 そうするとオリバーさんも、困惑したよう眉根を下げてしまい…。 「別に甘やかすなど…私はただ、本心を述べたまでなのですが…。」 「ほらまたっ、そういうこと言う~…」 じとりと視線だけで見上げたら、 参ったなぁ…と苦笑いするオリバーさん。 いや、参ったのはオレの方ですけどね…。 「オリバーさんは見た目も中身も、反則レベルで男前なんですからっ。発言には責任を持ってくれないと…勘違いされて、すぐ惚れられちゃったりするんですから。気を付けて下さいね?」 「えっ…!?」 ぴしっとオリバーさんの頬を指で突っつき、忠告するオレに対し。 彼は目を丸くして、固まってしまうのだが───… 「それはっ、セツ殿も…」 「えっ…」 なんだか前にもあったような、妙に浮わついた空気に苛まれる羽目になり。ふたりでモヤモヤしていると… 「あっ、そろそろ交代の時間ッスね、オリバー団長~!」 『っ…!!』 時計を見ながら、シロエさんが場違いに陽気な声でブッた切ってくれたおかげで。 その場はなんとか、乗り切ったんだけども。 「では、私はこれで…」 「あっ…はい、お…お疲れ様でしたっ…!」 いそいそとオレを下ろし、一礼するオリバーさんに釣られ。オレもあたふたしながらお礼を述べる。 変な汗を掻きつつ…若干忙しない心臓を押さえながら、しばらく茫然としていると。 「ルー…」 スタスタと、此方へやって来る…不機嫌そうな目とかち合ってしまい。なんとも居たたまれなくなる。 「ちっ…違うからな、コレはっ…」 「な、なんの話だ…?」 そうコレはだからアレだ。美形で憧れの上司みたいな人から煽てられて、舞い上がってしまっただけであって。 別に意識したとか、そういうのじゃないんだから…。   ルーはいきなり言われ、当然ながら訳が判らず。 訝しげに見下ろしてくるけども。 「……………」 「…いや、無言で圧をかけないでよ…。」 オリバーさんが絡むと、ルーはすぐこうなるから… オレは大きく溜め息ひとつ吐いて、両手を広げる。 「…ルーの番、だよね?ほら…抱っこしてよ?」 本来なら、こんなことするようなキャラじゃないんだけども。敢えて子どもっぽく、ねだるように見上げたら。 「…セツは、本当にズルいな…」 「え?」 口元を押さえ天を仰ぐルーは、なんでもないとぶっきらぼうに返すと。 望み通り、オレの身体を両手で軽々抱き上げてくれた。

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