334 / 423

「まだ機嫌…直んないのか?」 「別に、私はっ…」 少しは解消されたかには見えたのだが… オレを抱えて歩く間も、どこか腑に落ちない様子だったルー。 今夜の夜営地点に到着してからも、何かと考え耽る節があって…。さすがに気になり、隣に座るルーの腕をえいっと小突く。 コイツは違うと誤魔化すけどね。 ずっと一緒に過ごしてきたんだし…今は恋人同士なんだから。気付かないわけがないじゃん… てか…メチャクチャ判り易いし。 『後で慰めてあげたらいいよ』 アシュに言われた言葉を、ふと思い出し…オレは辺りを見渡す。 昨日はオレが足を引っ張った所為で、全然進めなかったけど。おんぶ作戦は地味に効果を発揮し、目標距離までなんとか巻き返せたのは幸いで。 皆一安心といった様子で、談笑していた。 と…もう一度ルーへと視線を戻すと。 バツが悪いのか目が合わないよう遠くを見つめ、ぼんやりしていたので… 「オレっ…ちょっとトイレ、行ってくるから…」 すくっと立ち上がり、ルーの袖を引っ張る。 「怖いから…ルーもついて来てよ。」 促して、オレはルーをその場から連れ出した。 「セツ、あまり遠くへは行かないようにな?」 ルーの腕を引いて、足早に歩く。 コイツはほんとにトイレだと勘違いしてるみたいだから、そう注意してくるのだけど…。それは百も承知、でも誰かに見られたらマズイんだよ。 だって… 「ルー、こっち…」 グイグイ引いて、茂みの奥へと誘い込み。 「や…私はそこで、待っているから────」 困惑し出すルーは、手を離そうとするから。 半ば強引に引き寄せると… 「っ……」 オレは背伸びして、自分からルーにキスをする。 最初は全く状況が呑み込めず、硬直していたルーだったけど…。 「セ、ツ…」 「…オレからこういうコトすんの、変かな?」 本当は、昨日だってひとりテントで寝るのが寂しかったし。いつもだったら一緒に寝たり、おやすみのキスだって出来たのになぁとか…思ってたんだ。 恥ずかしながらも、そう本音を口にしたら。 「んっ…」 遠慮がちに、でも余裕なく抱き寄せられ… 心ごと奪われるから。 応えたくて、ぎゅって背中に腕を回せば。 木の幹にとすんと押し付けられた。 そのまま舌も絡められ、きつく吸い付かれる。 「は…ぁっ…」 「セツ…」 唇をくっつけたまんま、名前を呼ばれるのってゾクゾクする。 たったこれだけのことなのに。 ルーが触れてるんだと思えば身体中、五感の全てが歓喜して。 もっともっとって、欲張りになるけど…。 「セツ、これ以上はっ…」 「んっ…解ってる…」 流されそうになるのを抑え、啄むようなキスに留め…それでも何度も重ねる。 視線はずっと外さぬままに、うっとりと見つめ合って…。 「ルー…」 「ん…?」 熱い吐息を漏らしながら、ルーの首筋にしがみつき。 「好きだよ…。」 耳元へと口付けながら、ソワソワと心臓は馬鹿みたいに跳ね上がる。 「ああ、私もだ…」 愛してる。 大好きな声で、大好きな人が応えてくれるから。 やっぱり特別なんだなぁと…オレはこっそりと苦笑った。 「機嫌…直してくれた?」 「む…すまない…」 こんな女の子みたいに甘えた仕草で、自分でもびっくりだけど。 ルーだから甘えたいというか… 乙女になってしまう自分もいるのも本心で。 妙に浮わついた声音で、キスをねだりながら問えば。ルーは決まり悪そうにしながらも、ちゃんとオレの心を読み取ってくれるから…。   「ん…」 望み通りの甘いキスを。 欲しがる分だけ与えてくれるのだ。

ともだちにシェアしよう!