340 / 423

「えっと…オリバーさんも忙しそうですし、オレはこれで…」 「セツ殿…!」 居たたまれなさに駆られ…逃げるように去ろうとしたら、すぐに呼び止められて。 あからさまドキリとしてしまい、肩が揺れる。 「…今夜、私に…お時間を頂けないでしょうか?」 「え…?」 凛とした声音に、弾かれ振り返ると。 切なく光る瞳とまたぶつかり… 「どうしても貴方に、お伝えしたいことがあるので…。」 揺るがぬそれらに、つい吸い込まれそうになるものの… (…もう、はっきりさせないきゃダメ…なのかもな…) 彼がオレへと向ける想いが…なんなのか、を。 オリバーさんだからこそ、誤魔化したり適当な事を言ってはいけないと思うから… 「…わかり、ました。」 なんとかして声を絞り出し応じると、彼は安堵したよう小さく息を吐き。 「では…夕食後、この上で…お待ちしております。」 告げてオレが今向かおうとしていた塔を、視線で示すと…オリバーさんは静かに一礼して、足早にこの場を立ち去っていった。 (はあ~…緊張した────…) 脈打つ胸を撫で下ろし、大きく嘆息する。 今夜のことを思うと、落ち着かないけれど…。 (どうしよう…) ルーには……とりあえず黙っておこうかな…。 もしかしたら、オレの思い過ごしかもしれないんだし。 そうなると、話が余計拗れるだけだから。 結果を見てから話す方が良いのかもしれない。 (でも、) あんな風に、あんな顔して告げられたら… としか思えなくって。 正直なところ、気持ちが追い付かなくて戸惑う。 まさかオリバーさんがって…思いも寄らないだろ?ルーに片想いしてた時だって、最初はそうだったんだから。 それで色々あって、あんな遠回りする羽目になっちゃったんだし…。 寧ろオリバーさんみたいな人がオレを、とか… 逆になんで?って、疑問しか浮かばないんだけど…。 「はあ~…」 モヤモヤするのを振り払うべく、空を仰ぎ見る。 オレの心とは裏腹に、そこは一面晴れ渡っており。湿り気を含んだ風が火照った頬を凪いでは、そよりと通り過ぎていく。 ぼんやり遠くを眺めれば柵の向こう、広大な森が鬱蒼と繁っていて。果てのない景色に、逃避してしまいたくなるけれど…。 「ちゃんと、しなきゃ…」 それだけはダメだって解ってるから。 視界は虚ろに、けれど頭の中は忙しなく。 蒼と黄金、ふたりの騎士を思い浮かべながら… 時はいつになく走馬灯のように。あっという間に過ぎていった。

ともだちにシェアしよう!