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「あれ…オリバーさん、もういっちゃうんすか?」 「っ…!」 こんな時ほど、その瞬間は早くで訪れるもので。 気付けば既に夕食後、お喋りが盛り上がり始めたのを頃合いに。徐にオリバーさんが席を立ち…緊張が走る。 「ああ…明日も早いからな。お前達も早めに切り上げておけよ。」 ジーナが声を掛けたが、オリバーさんは淡々とそう答えたので。名残惜しそうにしながらも、ジーナは行儀良くハーイと応じて返した。 「ではセツ殿、お先に失礼します。」 「っ…あっ、はい…」 落ち着きなく水をバカみたいに飲んでいたら、不意打ちに声を掛けられて… 大袈裟なくらいビクッと肩を揺らしてしまう。 それでも平静に努め、答えれば。 ほんの一瞬だけ、オリバーさんはオレを見つめると… 颯爽とした足取りで食堂を後にした。 「いやぁ~、やっぱオリバーさんはカッケェよなぁ~…。」 それを見送り、ジーナがしみじみと語り始め。 「ジーナはオリバーさんに、ずっと憧れてたもんね~。」 「オレさっ、今回一緒に遠征に来れてホント嬉しくってさ~!」 ロロに言われ、ジーナは酒でも飲んだのかってくらいのテンションで以て、揚々と捲し立てる。 「オリバー殿は騎士としては勿論、大変な人格者ですからね。」 私も尊敬していますと、ジーナに賛同するのはヴィンであり。 「君が素直に称賛するだなんて珍しいねぇ。」 「私はそれほど出来た人間ではありませんが。」 アシュの言葉に、ヴィンは眼鏡を直していたけど… なんだか照れているように見えた。 「ルーだって憧れてただろ~?」 ジーナが唐突にルーへと話を振るから、オレの緊張感は更に膨らみ。 なるべく自分には矛先が向かないように。 ひっそりと空気になりつつ…聞き耳だけはしっかりと立ててみたり。 「そうだな…」 こっそりと盗み見たルーは、暫し考え耽った後…ゆっくりと口を開き。 「私もずっと、オリバー殿を手本にしてきたし。誰もが思い描く理想の騎士像を、身を以て体現している方だから…」 オレのことで、オリバーさんとは何かと衝突していたルーだけど。根っこではやっぱり慕ってるんだなって、安堵はするものの…。 (…………) 余計に落ち着かなくなるオレは、不自然にソワソワと…無言になってしまうから。 「セツ?どうした、疲れてしまったか?」 「ふぇっ…」 異変に気付くルーに顔を覗き込まれ、ドキリとして我に返った。 「眠いようなら、部屋に戻るか?」 「やっ…」 オレが大人しかったからか、勘違いするルーは席を立とうとするけれど…。このままだと、一緒に部屋へ戻ることになっちゃいそうだし。 でもっ… 「えっと、そのっ…───あ!オレ、トイレに行って来るからっ…」 迷った挙げ句、しどろもどろになりながら苦し紛れに理由を繕って勢い良く立ち上がるオレを。 ルーは静かに見上げてたんだけど… 「ルーはみんなと、まだゆっくりしてていいから…」 「……そうか、分かった。」 何か言いたげにしながらも、あっさり頷くルーに。 オレはいそいそとボロを出さない内に、食堂から転がるように飛び出した。

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