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(完全に不自然、だったよなぁ…ルー勘が良いし…。) ルーとはほぼ一緒にいるから、逆に離れるってことが難しいんだけども。とりあえず抜け出せたわけだしと、安堵して息を吐く。 (はぁ~…緊張し過ぎて、胸焼けしてきたよ…。) オリバーさんとの約束があったから、夕食なんて殆ど食べられなかったのに…。 一日中そのことばかりがちらついてたもんだから。精神的な疲労感が、とにかくハンパなかった。 夜の基地内は、ちょうど騎士さん達も食事時とあってか廊下にも人気はあまりなく。 薄暗い通路を、点々と設置されている魔石灯と、窓からの月光が静かに照らされている。 忙しなく弾む心音を押さえつつ、上へと上がって行き。あっという間に屋上まで到着すると…。 朝方オリバーさんと話していた、物見塔への入り口が視界に留まった。 その天辺を見上げ、思わずごくりと喉を鳴らすけど。オレは意を決して…震える一歩踏み出す。 塔内へ入り、最上階へと続く螺旋階段を上がって行けば、先から月明かりが射し込んできて… 「あっ…」 仄かな月光に照らされて一際煌めく小麦色の髪と、逞しい背中が見え…ついドキリとしてしまった。 それでも覚束ない足をもたげて。 オレは一歩一歩、前へと進んで行く。 「セツ殿…お待ちしておりました。」 振り返るオリバーさんは、神妙とした… けれど柔和に微笑み、恭しく胸に手を当て一礼する。 「申し訳ありません、無理を言って…ルーファスは…」 「あっ…だ、大丈夫です…」 ルーの名につい反応しつつも、慌てて両手を振ると。オリバーさんは申し訳なさそうに苦笑を漏らす。 「…………」 「…………」 どう切り出したらいいのかが判らず、黙っていると。 オリバーさんも考え込むよう沈黙してしまい…。 塔の最上階、夜の静寂さに。 何とも言い難い空気が纏わり付く。 「私は…」 そんな中、先に口を開いたのはオリバーさんであり。 情けなく動揺してしまうオレは、 ぎこちない動きでなんとか彼の長身を仰ぎ見た。 「私は神子に、そして守護騎士に幼き頃より憧れ…今日(こんにち)まで精進して参りました。」 天才だと謡われる彼の実力は、まさに努力の賜物。故に誰もがを、疑いもしなかったが… 「女神に選ばれなかったことを悔やみはすれど、それは己が未熟さ故のこと。神の思し召しと在らば…と、自分では納得していたつもりでした。」 迷いもなくきっぱりと言い切るのに。 彼は僅かにその緑眼を揺らして。 「しかし神子である貴方を前にした時、私は初めて守護騎士に。ルーファス達に、嫉妬してしまったのです。」 実際にオレと出会い、心が揺らいだことを打ち明けるオリバーさんは。 じっとこちらを見つめ、切なげにその瞳を細める。 「幾度となく貴方に危険が及ぶ度、貴方の笑顔に魅せられる度に…守護騎士として、お傍にいられたならば。どれほど良かったことかと…」 誰よりも近くで護りたかった。 その笑顔を、この目にずっと留めておきたかった。 「だからこそ…今こうしてお傍にいられることが、何より幸いで…」 年甲斐もなく浮かれてしまったのだと、彼は自嘲して苦笑う。 「このような大事な時分に、お心を煩わせてしまい…セツ殿を、さぞ困らせてしまったことでしょう。」 「そんなっ────」 謝ろうとする彼に堪らなくなったオレは、口を開こうとするのだけど…

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