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「セツ殿。」 凛と響く力強い声が、それを遮って。 「私は、貴方を…お慕いしております。」 騎士としてではなく、ひとりの男として。貴方を。 「…それっ…て、」 「セツ殿に、恋心を抱いている…という意味です。」 畏まった言葉遣いに、困惑も相まって口ごもっていると。すぐに直球なもので返されてしまい。 オレは反射的に俯く。 「オレはっ…」 ちゃんと伝えなきゃ、けれど緊張で身体が震えてしまい…思うように声が出せなくて。 「存じております。貴方と、ルーファスのことは…。」 「あ…」 先に告げられ、ハッとして見上げると…穏やかな表情とぶつかって。ふわりと優しく微笑まれる。 注がれる視線は愛おしさを隠さず、オレを映すのに。何処か寂しげに…けれど揺るぎは微塵も無く。 「だからこれは…私のけじめなのです。」 どうしても伝えておきたかったのだと、苦笑うオリバーさんの姿はとても清々しく。 「貴方を見ていたら、その心が向かう先などすぐに解りました。」 「オレはっ…」 胸の奥が締め付けられ、感極まるオレは目頭を熱くさせるけど。何か衝動に駆られ、堰を切ったよう思いを吐き出す。 「この世界に来てからずっと、アイツはオレを励ましてくれて…」 ううん、たぶんその前から。 既にオレは魅了されてたのかもしれない。 「アイツがいたから、神子として頑張ろうって思えたし…。自信だって付いたから。」 上手く伝えられるのか、こんなことをオレの立場で言っていいのかも判らない。 それでも、ちゃんと自らの言葉で伝えたくて。 ぎゅっと手を握り締め、紡ぐ。 「今こうして、オレが神子として立っていられるのは、」 ルーファスがいたからこそ。 「オレにはアイツじゃなきゃダメなんです、だからっ…」 「セツ殿。」 ごめんなさいって、謝ろうとするのを… オリバーさんに遮られてしまい。 「どうか謝らないで…それも覚悟の上ですから。」 「あっ…」 失言だったんだと気付かされ、身体中が熱くなる。 「むしろ謝らなければならないのは、私の方…この心を未だ、貴方から完全に切り離すことが叶わないのだから…。」 許して欲しいと頭を下げると、オリバーさんは徐に跪き胸に手を当てて。 「秘めることすら儘ならぬ、未熟者ではありますが…騎士として全身全霊で貴方をお護りしますから。どうか最後まで、私を貴方のお傍に…仕えさせては、頂けないでしょうか?」 「オリバーさん…」 フェレスティナが誇る最強の騎士が、 誠実に向き合い…誓いを請う。 言葉にするのは難しい、 それでも何か伝えたいとは思ったのだけど。 それはきっと… オレがするべきことでは、ないだろうから。 「…オレの方こそ、宜しくお願いします。」 渦巻く感情を飲み込み、彼に習って応じたならば。つい涙が…溢れてしまったけど。 オリバーさんは遠慮がちに微笑みながら、手を差し出すので。それにも従い、手を重ねると… 「ありがたき、幸せ。」 騎士と神子としての忠誠の証に、甲へと軽く口付けを落とされた。 彼はそのまま、すっと立ち上がる。 「私は先に…セツ殿も、戻られますか?」 最後までオレを気遣うオリバーさんは、 涙する目元に、手を伸ばそうとしたけれど… 「ちょっと落ち着いてから、戻りますから…」 「そう、ですか…」 哀愁を滲ませながら、結局はその手を引っ込めて…静かに背を向けてしまった。

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