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⑨
「セツ殿。」
凛と響く力強い声が、それを遮って。
「私は、貴方を…お慕いしております。」
騎士としてではなく、ひとりの男として。貴方を。
「…それっ…て、」
「セツ殿に、恋心を抱いている…という意味です。」
畏まった言葉遣いに、困惑も相まって口ごもっていると。すぐに直球なもので返されてしまい。
オレは反射的に俯く。
「オレはっ…」
ちゃんと伝えなきゃ、けれど緊張で身体が震えてしまい…思うように声が出せなくて。
「存じております。貴方と、ルーファスのことは…。」
「あ…」
先に告げられ、ハッとして見上げると…穏やかな表情とぶつかって。ふわりと優しく微笑まれる。
注がれる視線は愛おしさを隠さず、オレを映すのに。何処か寂しげに…けれど揺るぎは微塵も無く。
「だからこれは…私のけじめなのです。」
どうしても伝えておきたかったのだと、苦笑うオリバーさんの姿はとても清々しく。
「貴方を見ていたら、その心が向かう先などすぐに解りました。」
「オレはっ…」
胸の奥が締め付けられ、感極まるオレは目頭を熱くさせるけど。何か衝動に駆られ、堰を切ったよう思いを吐き出す。
「この世界に来てからずっと、アイツはオレを励ましてくれて…」
ううん、たぶんその前から。
既にオレは魅了されてたのかもしれない。
「アイツがいたから、神子として頑張ろうって思えたし…。自信だって付いたから。」
上手く伝えられるのか、こんなことをオレの立場で言っていいのかも判らない。
それでも、ちゃんと自らの言葉で伝えたくて。
ぎゅっと手を握り締め、紡ぐ。
「今こうして、オレが神子として立っていられるのは、」
ルーファスがいたからこそ。
「オレにはアイツじゃなきゃダメなんです、だからっ…」
「セツ殿。」
ごめんなさいって、謝ろうとするのを…
オリバーさんに遮られてしまい。
「どうか謝らないで…それも覚悟の上ですから。」
「あっ…」
失言だったんだと気付かされ、身体中が熱くなる。
「むしろ謝らなければならないのは、私の方…この心を未だ、貴方から完全に切り離すことが叶わないのだから…。」
許して欲しいと頭を下げると、オリバーさんは徐に跪き胸に手を当てて。
「秘めることすら儘ならぬ、未熟者ではありますが…騎士として全身全霊で貴方をお護りしますから。どうか最後まで、私を貴方のお傍に…仕えさせては、頂けないでしょうか?」
「オリバーさん…」
フェレスティナが誇る最強の騎士が、
誠実に向き合い…誓いを請う。
言葉にするのは難しい、
それでも何か伝えたいとは思ったのだけど。
それはきっと…
オレがするべきことでは、ないだろうから。
「…オレの方こそ、宜しくお願いします。」
渦巻く感情を飲み込み、彼に習って応じたならば。つい涙が…溢れてしまったけど。
オリバーさんは遠慮がちに微笑みながら、手を差し出すので。それにも従い、手を重ねると…
「ありがたき、幸せ。」
騎士と神子としての忠誠の証に、甲へと軽く口付けを落とされた。
彼はそのまま、すっと立ち上がる。
「私は先に…セツ殿も、戻られますか?」
最後までオレを気遣うオリバーさんは、
涙する目元に、手を伸ばそうとしたけれど…
「ちょっと落ち着いてから、戻りますから…」
「そう、ですか…」
哀愁を滲ませながら、結局はその手を引っ込めて…静かに背を向けてしまった。
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