344 / 423

「私が誰よりも先に、貴方と出逢えていたなら…」 何か違っていただろうか? 「え…?」 ぽつりと囁かれたそれは夜風に紛れ、オレの耳には届かなかったけれど。 「いえ…」 もう一度、顔だけで振り返ったオリバーさんは。 本当に穏やかな笑みを湛えていて。 「今宵は私の我が儘にお付き合い下さり、感謝致します。それと…泣かせてしまって、すみません…。」 私には、その涙を拭うことは叶わないから。 そう告げた彼は、少しだけ寂しそうに苦笑すると。大きな背中に月明かりを受けながら、別れの挨拶と共に立ち去った。 オレは暫し動けず、 誰もいなくなった場所を茫然と見つめ、佇む。 (こっち来てから、ほんと涙腺緩くなったなぁ…) グスンと鼻をすすり、涙を乱雑に拭った。 そよぐ風は相変わらずしっとりしていたけど。 やけに火照った顔には、丁度いいように思える。 でも… 「こんな顔じゃあ、さすがに戻れないなぁ…」 トイレに行くとか言って出てきちゃったし… あんまり長居なんてしてらんないんだが。 昂って涙した所為で、目元はぷっくりと腫れぼったく…触ると熱を帯びていたから。 「ルーも今頃、勘づいて探してるかもしんないし…」 見つかる前に顔を洗った方がいいかも、なんて。 独り言を口にしていたら… 「もう見つけている。」 「えっ…」 何故だか背後から声がしたかと思えば… 既にオレの身体は、その逞しい腕で抱き締められていて。 「るっ、ルー…!?」 驚くあまり、頭の中が真っ白になる。 「え…ど、どっから来たのっ…」 「ん…?」 当たり前のように、下から来たと答えるけど… ここは物見塔の天辺だし。 ルーが現れたのだって、今しがたオリバーさんが立ち去っていった出入り口の…反対側になるんだから。 …まさか飛んで来たってわけじゃあ、ないよね…? 先程までのこともあってか、思考は上手く働かないし。加えてルーに後ろから抱き締められてるもんだから…。 冷まそうとしてた熱が再燃して。 心臓もバカみたく高鳴ってしまった。 「もっ、もしかして…」 聞いてたんだろうか、オリバーさんとの遣り取り…。気まずいながら恐る恐る問うと、 「ん?…まあ。」 「いっ、いつから…」 「…セツが此処に来た辺り、からかな…」 全部じゃん!…って、思わずツッコんだら。 更に強く抱き締められてしまい。 もう~…恥ずかしいし、メチャクチャ居たたまれないんですけど…。

ともだちにシェアしよう!