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「…オレ、全然気付いてなかったんだ…」 オリバーさんの気持ちに。 何だか胸がいっぱいいっぱいで、ルーに聞いて欲しくなったから… オレはぽそりと、独り言のように話す。 「ここ最近になって、もしかしたら…ってのはあったんだけど、さ。」 まさかオリバーさんみたく大人で完璧な人が。 オレなんかをって…思いもよらないだろ? …まあそれを言ったら、ルーにだって同じことが言えるんだけども。 「セツは鈍いからな。」 「んなっ…!?」 なのにルーはわざとらしく、大袈裟な溜め息を吐いてみせるもんだから。 ムッとなって振り返ったら、じっとオレを捉える瞳とぶつかった。 「…お前は、気付いてたっていうのか?」 「寧ろ気付いてないのは、セツくらいのものだぞ。」 悔しくて言い返すものの、しれっとカウンターを食らわされて。 尻込みすれば、更に畳み掛けられる。 「オリバー殿がセツに向ける好意は、あからさまだったしな…。」 なにより、と…間を置くルーはそこで真顔になり。 「同じ想いとなれば…嫌でも解るものだ。」 それがお前に抱く想いならば。 言ってルーの手は、オレの頬へと伸ばされる。 「オリバー殿に限った話じゃない。セツが気付かないだけで、お前に特別な感情を抱く者は、それこそごまんといるのだから。」 少しは自覚して貰わないと…お前はただでさえ自覚無しに、人を惹き付けて止まないのだから。 「私の気が、休まらないよ。」 「なっ!…る、ルーには言われたくない、しっ…」 説教するみたくズバッと言い切られると、なんだか悔しい。…というか、 「お前…余裕そうだな?なんか吹っ切れたっていうか…」 「そうか?セツが絡むと、つい感情が先行してしまい、自制が効かなくなるのだがな…。」 さらりと答えてるけどさ。 いつもだったら、オリバーさんとこう…ふたりきりで話してる時点で、ヤキモチとか妬いちゃってさ。邪魔なり何なりしてきそうなもんだろ? なのに… 「さすがに…そんな野暮なことはしないさ。」 大人げないからな、とか。 いやいや…どの口が言ってんだか。 自制出来ないとか言いながら、目の前のルーは至って冷静というか。むしろ、いつにも増して落ち着いてるからさ…逆に違和感あるんですけど? あ、もしかしたら… 「…オレがオリバーさんの告白を断ったからか?」 「…それは本気で言っているのか?」 だってオリバーさんのこと、ずっと意識してバチバチしてたし。 オレが彼を振ったことで不安も解消されて。 優越感じゃないけど。気持ち的に余裕ができたから…とか、思ったんだけども。 対するルーは心外だとばかりに、ムスッとしてしまった。 「私はただ…セツが、」 “オレにはアイツじゃなきゃダメなんです───” 「あの時セツが言っていた言葉が、嬉しかったから…」 それだけだと、ルーはとても幸せそうに微笑む。 「だから……私を選んでくれて、ありがとう。」 「え…ぁ…」 ズルい、こんな不意打ち。 そんなのオレの方が、お前に言いたいくらいなのに。 感謝を口ずさむルーは、 とても晴れやかな笑顔で以て、告げるから。 「ばか…違う、よ…」 嬉しい、でもそういうのじゃなくてさ。 「どうせ伝えるなら、そんなんじゃなくて…」 もっと最適な言葉があるはずだろ。 恋人ならば、別の… 「ああ、」 真っ赤な顔になりながら、ぶきっちょにも切り出す。 察してくれる恋人は、くすりと苦笑いながらも。 「愛している。」 「…うん、オレも。」 ちゃんとオレを甘やかしてくれるから。 自然と引き寄せられるがままに。 愛おしい人は応えて柔らかな口付けを、交わしてくれるのだ。

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