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ep. 33 愛のかたち①
『……ファス、どうか私の想いを受け取ってくれる?』
これは夢の中、もう随分昔の事のように…
うっすらとしか記憶に残ってはいないのだけれど。
その一場面が、ノイズかがって再生されていく。
それは魔王との決戦前夜、
結ばれた神子と騎士との重要なシナリオ。
神子の少女は、愛すると決めた騎士を自らも護りたいと願い。
聞き届けた女神はその術 を授け…
その力とはまさに、神子が愛する者にだけ与えるという…『加護』と呼ばれているもの。
神子が祈りを捧げれば、
その者は神子の加護をその身に受け…
更に強大な力を得られるというのだ。
あれは所謂、健全な乙女ゲームというものだったから。
両想いになったとしても、あって軽いスキンシップやキスする程度。その加護に至っても、身体を重ねる…なんて性的な描写は無く。
神子が女神に祈りを捧げ、騎士に愛の口付けを与えれば…願いが叶うといったものだった。
(夢、か…)
ぱちりと目が覚め、
朧気な記憶を広い集めるよう反芻する。
もしそれが、オレにも可能だったとしたら…
魔王城が近付くにつれ、現実味を帯びてくると…
脳裏に過るのは、一度失いかけた瞬間の…切ない記憶。
ルーが魔王ジークリッドと戦うことは、もはや抗いようのない運命であり…本人だって覚悟の上だ。
だけど…
(オレは…)
結界や怪我を治すことは出来ても、魔族や魔物と戦う術も腕力も一切無いから。
ルー達の行く末を、オレはただ見守ることしか出来なくて。ルーに全てを背負わせなきゃいけないことが、もどかしくて仕方ない。
いつもみんなの影に隠れ、守られてばっかだから。
こんな時こそ、オレだって力になりたいのにな…。
(オレにも出来るのかな…)
守りたい。無力だからこそ、切実に。
「おはよう、セツ。体調はどうだ?」
「ルー…」
瞑目したまま物思いに耽っていたら、その声に弾かれて。見開いた先には、羽のように微笑む愛しい人。
「おはよ…久しぶりに良く眠れたし、かなりマシにはなったよ。」
その笑顔に安堵する一方で、不安もまた否めないけれど。今更、弱音なんて吐いてる時ではないから…オレも笑って返すのに。
ベッドに腰掛けたルーは、オレの後ろ髪へと手を伸ばし、優しく引き寄せると…
「安心して良い。私はいつでも、セツの傍にいるから。」
「ルー…」
その胸に抱き、額にキスを落として。
ただただ穏やかな温もりを与えてくれる。
本当なら、色々聞きたいのだろうけど…。
敢えて黙っていてくれる、その優しさが、
今のオレにはありがたかった。
「約束だからな…」
魔王城はもう目前。
言い様のない不安は計り知れないし、夢の内容だって凄く気になる。
それでもルーが、一緒にいてくれるなら。
何があっても、
オレは強く在れるような気がするんだ。
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