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「だからと言って、無理はなさらないで下さいね?辛い時は遠慮せず、我々を頼ってくれて良いのですから。」 貴方はすぐ平気な振りをするからと、珍しく無邪気な目で笑うオリバーさん。 「はいぃ…善処します…。」 (こんなスゴイ人に、告白されただなんてっ…) 未だに夢だったんじゃなかろうかと、疑いたくもなるけど。 だからこそ、ついつい意識して。 態度丸出しになってしまう自分が、情けなく思う。 (ホント大人だよなぁ…オレも見習わなきゃ…。) 彼がこうして、普通に接してくれているのだから。オリバーさんの立場も踏まえて、みんなから変な勘繰りされないようにしないと…。 「これからも…宜しくお願いしますね。」 「…ええ、こちらこそ。」 なるべく平常心に努め、軽く頭を下げたら。 オリバーさんも胸に手を当て、優しい眼差しを浮かべていた。 「そうだ、ルーファス。」 「…はい。」 ふと、オレの後ろに控えていたルーに声を掛けるオリバーさん。 成り行きを静観していたルーは静かに返事をし、視線を交えると。途端に沈黙が流れてしまったから、思わず不安が過る。 けど…しばらくすると、オリバーさんの方から口を開いて。 「間もなくだな…私もお前も、魔族から直々に指名を受けた身。思うところもあるだろうが…」 ルーもオリバーさんも負けられぬ一戦を控え、緊張感や重圧など…抱えるものは、オレの想像にも及ばなくて。 オレのことさえなければ… 本来なら、もっと気安く解り合えたんだろうけど…。 「私もより一層気を引き締め、セツ殿をお護りする所存だ。だから改めて…セツ殿のことを、宜しく頼む。」 真っ直ぐに…お互いを映す、濃淡なエメラルドの双眸達は。 一切の迷いも無く、誠実な光を宿しており… オレの些細な不安は一瞬で払拭される。 ルーはひと呼吸置いた後、拳を胸元へと掲げると… 「騎士の名にかけて…必ず。」 敢えて騎士の習わしに則って、誓いを立てるのは…何か深い意味合いがあるのかもしれない。 でもオレの立場では、その意図するものまでは解らなくて…。ちょっとだけ、騎士のふたりが羨ましくも思うのだけど。 (…打ち解けた、のかな…。) 今まで感じていた、ふたりを隔てる壁は、すっかりと消え去り。ルーもオリバーさんも晴れ晴れと… ちょっとだけ悪戯な笑みを湛え、拳を突き合わせていた。 「あれ?なんだか団長の雰囲気、チョー変わってね?…っあだ!」 「チッ…いい加減、空気読めよバカ野郎!」 それは今までが不自然だった分、判り易い変化だったけど。 「ふふ…ようやく吹っ切れたみたいだねぇ。」 「…そのようですね。」 アシュとヴィンが安堵の笑みを溢し、そう話していたように。心は前向きに進んでいると思うから。 「さあ、参りますよ。我々には時間がありませんからね。」 「はーい!」 「おうよ!」 頃合いを見て、ヴィンが手を打ち合図すると。 年少組を筆頭に、皆も気合い充分に返事をして集う。 「行こう、セツ。」 「…うん!」 差し出された手を、照れながらも重ね歩き出す。 慣れないことの連続で身心共にズタボロ、すっかり疲弊しちゃってるし。先のことを考えると怖くて仕方ないいものの…。 皆それぞれ様々な想いは在れど、絆は着実に深まっているはずだし。みんなと一緒なら、この試練も乗り越えられるって思えるから…。 心は今日の空のように。 晴れやかで、けれど風はしっとりと… 心地好い緊張感を保って、挑めるような気がした。

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