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③
「だからと言って、無理はなさらないで下さいね?辛い時は遠慮せず、我々を頼ってくれて良いのですから。」
貴方はすぐ平気な振りをするからと、珍しく無邪気な目で笑うオリバーさん。
「はいぃ…善処します…。」
(こんなスゴイ人に、告白されただなんてっ…)
未だに夢だったんじゃなかろうかと、疑いたくもなるけど。
だからこそ、ついつい意識して。
態度丸出しになってしまう自分が、情けなく思う。
(ホント大人だよなぁ…オレも見習わなきゃ…。)
彼がこうして、普通に接してくれているのだから。オリバーさんの立場も踏まえて、みんなから変な勘繰りされないようにしないと…。
「これからも…宜しくお願いしますね。」
「…ええ、こちらこそ。」
なるべく平常心に努め、軽く頭を下げたら。
オリバーさんも胸に手を当て、優しい眼差しを浮かべていた。
「そうだ、ルーファス。」
「…はい。」
ふと、オレの後ろに控えていたルーに声を掛けるオリバーさん。
成り行きを静観していたルーは静かに返事をし、視線を交えると。途端に沈黙が流れてしまったから、思わず不安が過る。
けど…しばらくすると、オリバーさんの方から口を開いて。
「間もなくだな…私もお前も、魔族から直々に指名を受けた身。思うところもあるだろうが…」
ルーもオリバーさんも負けられぬ一戦を控え、緊張感や重圧など…抱えるものは、オレの想像にも及ばなくて。
オレのことさえなければ…
本来なら、もっと気安く解り合えたんだろうけど…。
「私もより一層気を引き締め、セツ殿をお護りする所存だ。だから改めて…セツ殿のことを、宜しく頼む。」
真っ直ぐに…お互いを映す、濃淡なエメラルドの双眸達は。
一切の迷いも無く、誠実な光を宿しており…
オレの些細な不安は一瞬で払拭される。
ルーはひと呼吸置いた後、拳を胸元へと掲げると…
「騎士の名にかけて…必ず。」
敢えて騎士の習わしに則って、誓いを立てるのは…何か深い意味合いがあるのかもしれない。
でもオレの立場では、その意図するものまでは解らなくて…。ちょっとだけ、騎士のふたりが羨ましくも思うのだけど。
(…打ち解けた、のかな…。)
今まで感じていた、ふたりを隔てる壁は、すっかりと消え去り。ルーもオリバーさんも晴れ晴れと…
ちょっとだけ悪戯な笑みを湛え、拳を突き合わせていた。
「あれ?なんだか団長の雰囲気、チョー変わってね?…っあだ!」
「チッ…いい加減、空気読めよバカ野郎!」
それは今までが不自然だった分、判り易い変化だったけど。
「ふふ…ようやく吹っ切れたみたいだねぇ。」
「…そのようですね。」
アシュとヴィンが安堵の笑みを溢し、そう話していたように。心は前向きに進んでいると思うから。
「さあ、参りますよ。我々には時間がありませんからね。」
「はーい!」
「おうよ!」
頃合いを見て、ヴィンが手を打ち合図すると。
年少組を筆頭に、皆も気合い充分に返事をして集う。
「行こう、セツ。」
「…うん!」
差し出された手を、照れながらも重ね歩き出す。
慣れないことの連続で身心共にズタボロ、すっかり疲弊しちゃってるし。先のことを考えると怖くて仕方ないいものの…。
皆それぞれ様々な想いは在れど、絆は着実に深まっているはずだし。みんなと一緒なら、この試練も乗り越えられるって思えるから…。
心は今日の空のように。
晴れやかで、けれど風はしっとりと…
心地好い緊張感を保って、挑めるような気がした。
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