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⑥
「思ったより軽くて安心したよ…。」
「…ッス。ありがとうございます、セツ殿。」
魔物の追撃も落ち着き、束の間の休息を取りながらも油断は許されず。皆が辺りを警戒する中、ベルさんの腕に治癒魔法を施す。
「なあなあベル、セツ殿の魔法すっげぇだろ~?」
治癒し終えると、シロエさんが得意気にベルさんの背中を叩いてきて。
あ~…そんなことしてたら、
「うっせ!世話んなっといて偉そうにしてんじゃねぇよ、馬鹿シロエ!」
「いっ…痛い痛い~!」
あはは…やっぱりこうなると思った。
けどベルさんもシロエさんも元気そうで良かったよ。
あの後も、かなりの時間走り続けていたし。
魔物も多くて徐々に手強くなってきてるようだからさ。
オレは何にもしてないんだけど。
せめてみんなの怪我の治療くらいは、役に立たなきゃ…。
「セツ、平気か?」
「うん、そこまで酷い怪我じゃなかったしね。このくらいの魔法なら、なんてことないよ。」
多少魔法を使うことにも慣れてきたのか…
簡単な治癒程度なら、すぐ疲れちゃうこともなくなってきたしね。
今はどちらかと言うと魔物に追われてることの方が、メチャクチャ体力削られるからなぁ…。
「セツ殿の体調に問題がなければ、すぐに出発しましょう。魔物の気配が近付いて来てますので。」
オリバーさんがオレの様子を伺いながら、そう進言すれば…
「ええ…それにここからは、他の班とも合流して進んだ方が良いかもしれませんね。」
ヴィンが賛同しつつ、更に思案しながら告げると。
「ならボクが信号弾、送っとくね~。」
ロロがハーイと名乗りを上げ、すぐさま掌へ半透明な魔力の球を生み出す。
それを上へと放り投げれば、魔力球は木々の隙間を抜け高く高く打ち上がり。
次には僅かに発光し…二方向に分散した後、弾け飛んで行った。
しばらくすると、魔力球が飛んで行った先から似たような魔力の波動を感じる。
「スゴイなぁ~それ!ちゃんと意志疎通できるんだよね?」
「一応ね。暗号化してあるから、簡単な内容にはなっちゃうけど。」
要は狼煙ってヤツだよね。
現代では無線とか文明の利器ってのがあるだろうけど。それに負けないくらい、魔法って便利だよなぁ~。
使いこなせれば…の話には、なっちゃうんだけど。
「おらセツ、喋ってる暇はねぇぞ~。」
「あっ…ごめんごめん…。」
ジーナに頭を小突かれ、慌ててみんなの列に戻ると…
「ではセツ殿、次は私がお運び致しますので。」
カナタさんに言われて思い出し、つい苦笑が漏れる。
「あ~そうだったね…よろしくね、カナタさん。」
「いえいえ、こちらこそ。この時をずっと、待ち侘びておりましたので。」
にっこり顔で返す彼の真意は判らなかったけれど。
すぐに背を向けて跪かれたため、気にせずその背に身を委ねた。
「さあ、もうひと踏ん張りですから。慎重に、かつ全員遅れをとらぬよう、迅速にお願いしますね!」
『了解!』
ヴィンのひと声で皆も気合い充分に応えると…
合図もなく、一斉に皆が駆け出す。
「セツ殿、速度を上げて行きますから…気を付けて下さいね!」
「はっ、はいぃ…!」
オレを背負うカナタさんが告げ、慌てて首元へとしがみつく。
これにも慣れてきたような気が、しないでもないが…
此方の世界の人間、いや騎士だからなのか。
彼らはオレが知っている人間の限界速度を、裕に超えているので。
その疾走は、さながら絶叫マシンにでも乗ってるかのような体感速度であり。
ホントは悲鳴を上げたくなるぐらい、凄いんだよね…。
(うひぃぃ…)
だがしかし、そんな大声を出そうもんなら余計に魔物を引き寄せ兼ねないわけで。なんとか歯を食い縛り、必死で耐え抜く。
良い年した大の男が、こんなことくらいでキャーキャー騒ぐ訳にもいかないからね。
…って、この世界の騎士がハイスペック過ぎるんだから。仕方ないのだけども。
(散々お荷物になってんだから、これ以上足を引っ張れないしっ…)
目的地もあと僅か。
この先で待ち受ける過酷な運命と、対峙するために。
神子であるオレを守護する、フェレスティナの精鋭達は。魔物犇めく深い森の中を、風の如く疾走するのだった。
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