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「…其方から来て下さるとは。手間が省けましたよ。」 「随分遅かったからな。待ちくたびれたんで、出迎えてやったんだよ。」 あくまで弱味を見せぬよう、毅然とした態度を取るヴィンに対し。ラルゴもおどけたような口振りで、ニヤリと笑ってみせた。 魔王城の方から、気配も無く現れたラルゴに。 騎士達は警戒心を抑えつつ、周辺へも気を配る。 けれど他に仲間の気配は感じられず。 敢えて自ら存在を知らしめるような行動を取ったということは… 「かなり参ってるみてぇだったからな。」 言ってちらりとオレを見やるラルゴに、ルーとアシュが素早く反応し警戒するも。 「…ならば約束まで少しばかり、猶予を与えてはくれないだろうか?」 「……」 ラルゴをじっと見据えるルーは、唐突にそう魔族へと申し出る。 暫くの間、互いに探り合うかのような沈黙が続いたが…ふとオリバーさんが歩み出ると、 「…魔王もお前も、我らを名指(なざ)してまで挑もうというのだろう?ならば私も、このルーファスも。万全を期して…それに応えたいと思っている。」 ラルゴが話の通じる相手であっても、敵であることには変わりなく。 オリバーさんも真意は避け、あくまで正々堂々と勝負しないかと…ラルゴの性格を念頭に、提案する。 と…ラルゴはオリバーさんへと視線を移し、わざとらしく思案するような仕草をしてみせるのだけど…。 「まあ…端からそのつもりで来たからな、待ってやるよ。」 なんとなく察しはついてたが… ラルゴは二つ返事で以て、こちらの要求を受け入れてくれた。 「では、明朝まで…」 「いや、特に時間は指定しねぇから。ソイツの都合に合わせて来いよ。」 再度オレを一瞥し、ヴィンの言葉を遮って告げたラルゴは。敵…ではあると知りつつも、その言葉に違和感を抱いてしまう。 ううん、もしかしたら… (魔族だから敵なんだって…無意識に決めつけちゃってるから、かも…) 魔族にとって神子は、宿敵の何者でもなく。 古から今日(こんにち)まで対立し、時には命を狙われることだってあったけど。 ラルゴに限っては、むしろ助けてくれることもあったぐらいだし…。 一見残虐な印象しかないジークリッドにしても。 あの襲撃時に、オレを始末する機会なら幾らでもあったんじゃないかって…今なら思えるから。 ティンカや双子だってそう、何処か憎めない部分は捨てきれないし。元よりこの決闘の話だって… 「せいぜい俺達が退屈しねぇよう、しっかり休んでおけよ。万全で…相手してくれんだろ?」 挑発的にオリバーさんへと視線を送ると、ラルゴは背を向けてしまい。大雑把に手を振りながら、そのままスタスタと城の方へと歩き出す。 「あ…ラルゴ!」 つい無意識な何かに駆られ、オレは魔族を呼び止めてしまったが… 「えっと…ありがとう。」 「はっ…神子ってのは、とんだ変わり者なんだな。」 礼を述べたら、呆れたように笑われてしまったけど。 彼はもう一度背中越しに、プラプラと手を振ると。闇に溶けるよう、静かに消えて行った。

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