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「震えているな…。」 ゆっくりと伸ばされた手が、オレのそれを包み込む。 「あっ…ここまで来てさ、急に止まんなくなって…」 きゅう…と両の掌で包まれて、じんわりと伝わる温もりに解かされる。 俯きがちに、目線だけで見上げたら…柔らかに笑む緑柱石とぶつかった。 「ルーのこと、信じてないわけじゃないんだ。でもっ…ルーに何かあったらって…」 脳裏の片隅に蔓延る、悪夢の瞬間。 ルーは目の前で、こうして生きているのに…。 あの生々しい記憶は消えることはなく、一抹の不安を掻き立てる。 「私のことならば、心配要らない。」 「分かってる、それでもっ…」 相手は魔族の王の座に君臨する男、ジークリッド。更には異様な空間魔法を使う、ティンカだっているから… 結果がどう転ぶかも、全く予測がつかない。 ラルゴと戦うオリバーさんもそうだし… あの双子や、もしかすると他にも仲間の魔族がいる可能性だってあるんだから…。 オレに出来ることはないのかなって、もどかしくなるんだ。 「ルーがそうしてくれるように、オレもルーを守りたい。この…神子の力で。」 守られるだけじゃなく、ちゃんとオレも仲間として。お前の役に立てたなら。 「ルーが、好きだから。もう絶対に、失いたくないんだよっ…!」 「セツ…」 感極まって泣きそうになるのを堪える。 まだ早い…大事なのは、ここからなんだし。 「神子の力に、ね…加護っていうのがあって…」 それは神子が、愛する者にのみ与えられる特別なもの。 だから… 「ルーに、あげたいんだ。…受け取ってくれるかな…?」 どうか受けとめて欲しい。 これはオレの想いの証だから。 逸らさず、真っ直ぐ互いの瞳を通わせ、問う。 ルーも真剣な眼差しで以て、一呼吸置いた後。 「セツの想いは、いつも私の魂と共に。…神子の情愛、謹んで頂戴する。」 応えるルーは、その手に包み込むオレの甲へと。 恭しくキスを落としてくれた。 「じゃあ…オレの前に、跪いてくれる?それから目を閉じてて欲しいんだけど…。」 言われるがまま跪くルーは、オレを見上げるようにして目を閉じていく。 「これで良いか?」 「うん。すぐ終わるから…少しだけじっとしててね?」 緊張で震えてしまう手で、ルーの両頬に触れる。 自分から与えると大口を叩いたものの。 この儀式だって詳しい方法などは解っていないから、ぶっちゃけ手探りなんだけど…。 腹を括り、いつか見た神子と騎士の、美麗な場面を思い出し…形だけでも真似てみた。 後は… (…祈るだけ。オレにはコレしかないんだから…) オレはルーが好きで。 もう二度と傷付いてほしくなくて。 お前がもし居なくなってしまったら… オレ独りでは生きていけないだろうし。 そうなったらもう、フェレスティナの人々だって幸せにはなれないから。 (オレもルーの力になりたい。一緒には戦えなくても、ほんの少しで良いから…) 「どうか女神様…ルーに、神子の加護を…」 心から、強く願う。 するとオレの身体は、ほんのりと光始めて。 敢えてオレ達の動向には振れないでいてくれた、ロロ達も。さすがに気になったのか…次第にみんなの注目が、こちらへと集まるのが判るのだけど。 今のオレには目の前の、愛する者しか映らない。 (後は、) 加護の魔法を発動させたなら。 次にはそう、神子は心通わす最愛の騎士へと… 「ん…」 口付けを与え、その奇跡と成すのだ。

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