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⑪
「震えているな…。」
ゆっくりと伸ばされた手が、オレのそれを包み込む。
「あっ…ここまで来てさ、急に止まんなくなって…」
きゅう…と両の掌で包まれて、じんわりと伝わる温もりに解かされる。
俯きがちに、目線だけで見上げたら…柔らかに笑む緑柱石とぶつかった。
「ルーのこと、信じてないわけじゃないんだ。でもっ…ルーに何かあったらって…」
脳裏の片隅に蔓延る、悪夢の瞬間。
ルーは目の前で、こうして生きているのに…。
あの生々しい記憶は消えることはなく、一抹の不安を掻き立てる。
「私のことならば、心配要らない。」
「分かってる、それでもっ…」
相手は魔族の王の座に君臨する男、ジークリッド。更には異様な空間魔法を使う、ティンカだっているから…
結果がどう転ぶかも、全く予測がつかない。
ラルゴと戦うオリバーさんもそうだし…
あの双子や、もしかすると他にも仲間の魔族がいる可能性だってあるんだから…。
オレに出来ることはないのかなって、もどかしくなるんだ。
「ルーがそうしてくれるように、オレもルーを守りたい。この…神子の力で。」
守られるだけじゃなく、ちゃんとオレも仲間として。お前の役に立てたなら。
「ルーが、好きだから。もう絶対に、失いたくないんだよっ…!」
「セツ…」
感極まって泣きそうになるのを堪える。
まだ早い…大事なのは、ここからなんだし。
「神子の力に、ね…加護っていうのがあって…」
それは神子が、愛する者にのみ与えられる特別なもの。
だから…
「ルーに、あげたいんだ。…受け取ってくれるかな…?」
どうか受けとめて欲しい。
これはオレの想いの証だから。
逸らさず、真っ直ぐ互いの瞳を通わせ、問う。
ルーも真剣な眼差しで以て、一呼吸置いた後。
「セツの想いは、いつも私の魂と共に。…神子の情愛、謹んで頂戴する。」
応えるルーは、その手に包み込むオレの甲へと。
恭しくキスを落としてくれた。
「じゃあ…オレの前に、跪いてくれる?それから目を閉じてて欲しいんだけど…。」
言われるがまま跪くルーは、オレを見上げるようにして目を閉じていく。
「これで良いか?」
「うん。すぐ終わるから…少しだけじっとしててね?」
緊張で震えてしまう手で、ルーの両頬に触れる。
自分から与えると大口を叩いたものの。
この儀式だって詳しい方法などは解っていないから、ぶっちゃけ手探りなんだけど…。
腹を括り、いつか見た神子と騎士の、美麗な場面を思い出し…形だけでも真似てみた。
後は…
(…祈るだけ。オレにはコレしかないんだから…)
オレはルーが好きで。
もう二度と傷付いてほしくなくて。
お前がもし居なくなってしまったら…
オレ独りでは生きていけないだろうし。
そうなったらもう、フェレスティナの人々だって幸せにはなれないから。
(オレもルーの力になりたい。一緒には戦えなくても、ほんの少しで良いから…)
「どうか女神様…ルーに、神子の加護を…」
心から、強く願う。
するとオレの身体は、ほんのりと光始めて。
敢えてオレ達の動向には振れないでいてくれた、ロロ達も。さすがに気になったのか…次第にみんなの注目が、こちらへと集まるのが判るのだけど。
今のオレには目の前の、愛する者しか映らない。
(後は、)
加護の魔法を発動させたなら。
次にはそう、神子は心通わす最愛の騎士へと…
「ん…」
口付けを与え、その奇跡と成すのだ。
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