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「一応、神子とそこの2人は、ジークとラルゴに譲るつもりなんだけどさ。」 城のバルコニーから、躊躇いもなく軽々と降り立ったコナーに皆が警戒を強める。 魔族と魔物は、まるで獲物を捕らえるかのよう目をギラつかせていたが。まだ襲ってくる気配はなく、ピリピリとした風が辺りを駆け抜けていった。 「始まっちゃえば、遠慮はいらないって言われたし…あっさり死なないように気をつけてよね?」 外見がティコくらいに幼い分、その無邪気さが妙に不気味でいて…なんだか切ない。 特にオレは、魔族の人となりに疎い所為か… 自分に対し、謂れのない憎悪を向けられることが、違和感でしかなく…。 戦わなくちゃいけないというこの現実ですら、未だに処理しきれていない自分がいる。 だけど… 「させないよ、セツはボク達騎士団が護るから…!」 双子に受けた屈辱からか、珍しく声を荒げるロロも。ジーナに続き、その手に握る戦棍…メイスを構えた。 「だったらお前の相手は、ボクがしてあげるよ。」 名乗りを上げたルナーは、コナーの近くにふわりと舞い降りる。 いつもは高みに控える彼も、今回は自ら戦いに参加するようで。 バルコニーに留まる魔族が、徐に杖のようなものを掲げると…。その先端に取り付けられた赤黒い水晶珠が、怪しげに光を放ち始めた。 それに感化されるよう、唸り声を上げる魔物に。 騎士達もまた、すらりと剣を抜いて構える。 「上等じゃねぇか…なぁ、ロロ?」 「だね、ジーナ。アイツらを…後悔させてやろうよ。」 ジーナとロロも戦闘態勢を取り、 遠巻きに相対する双子と火花を散らし睨み合った。 「ルー、アシュ殿とオリバー殿も。セツを連れ、先にジークの元へ向かって下さい。」 今にも開戦しそうな勢いを前に、ヴィンは冷静に告げ、ジーナ達の元へと歩き出す。 「…君も残るのかい?」 「この数が相手では、指揮を執る者がより必要かと。」 アシュが背中越しに尋ねれば、ヴィンは振り返らず答える。 「ならばまずは、皆で応戦した方が…」 そうルーが申し出たものの、ヴィンは静かに首を振って否定し。 「城内へは、我々しか入ることは出来ませんから。全員をここで消耗させるわけにはいかないでしょう?」 それに、と…少しだけこちらを振り返るヴィンは。 珍しくも、にやりと悪戯な笑みを湛えると。 「貴方がいなくとも、このくらい…騎士団が見事打ち倒してみせますよ。」 宣言した後、颯爽と地を蹴った。 「ヴィン…!待ってるから、早く来いよ!」 「ふふ…直ぐに参りますよ、セツ。」 頼もしい背中に声を掛けたら、ヴィンは軽く手を振って応えてくれた。 「2班は入り口まで神子の護衛を!残りは私と共に応戦、3班も戦闘に参加して下さい!」 張り上げたヴィンの指示が、魔王城の庭園に響き渡り。門前の騎士達も即座に動き出す。 「我々、神子率いる騎士団の初陣ですが…相手は魔族の頂。此処が最終戦と心得、全力で挑みましょう!」 ヴィンの激励に騎士達も声を上げ士気を高める。 それに触発された魔物もまた、ずしりと重い咆哮を轟かせ─── 『グオオアァ…!!!』 「来るぞ、前衛で迎え討て!!」 フェレスティナの騎士と魔族の決戦は、開幕した。

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