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③
「…行こう、セツ。」
「う、うんっ…」
後ろ髪を引かれながらも…
ルーに背を押され、城の方へと向き直る。
今は止まっている場合ではないから。
ヴィン達を信じて、オレは先へ進まなくちゃ…。
「神子を逃がすな!ここで始末しちまえば、こっちのモンだぞ!」
ルーにアシュ、オリバーさんとシロエさん達に囲まれるようにしながら、城を目指す。
距離的には数百メートル位だろうか。
小走りに駆け出したオレ達に向けて、魔族らは狂気に満ちた目でオレを指し示した。
「俺が神子を殺して、魔族の王になってやるよ!」
「アレは…ラルゴと違って話が通じなさそうだねぇ。」
神子を前に荒ぶる魔族に対し、アシュは冷ややかに笑う。
雰囲気からして、あの魔族達は寄せ集め。
そもそもジーク達とは仲間…というわけでもなさそうだ。
だからきっと、遠慮なんてしてこないだろうから…
「やれるものなら、やってみろ…!セツには指一本たりとも、触れさせはしない!」
オレの足並みに合わせながら、少し前を行くルーが剣を抜き放ち激昂する。
隣にいるアシュも守護魔法を展開し、それをオレへと発動させた。すると身体が、柔らかな金色の光りに包まれていく。
『ギィアアアァッ…!!!』
「人間風情が、調子に乗るなよ!」
城のバルコニーに佇む魔族達が、杖を振りかざすと。
進路を塞ぐよう、魔物が壁となって立ち塞がり。
城壁を囲んでいた魔物達も、それを打ち破って庭園へと侵入を開始した。
騎士達もヴィンや団長の指揮のもと、散開して敵を迎え討つ。
「今度こそ…殺してやる!」
「はっ…吠え面かかせてやるよ。」
庭園の左側、拓けた場所へとコナーが駆け出すと。ジーナも同じ方向へと疾走し、瞬く間に距離を詰めていく。
すかさずコナーは拳を繰り出したが…ジーナは高く跳躍してこれを躱し。転じて素早く蹴りをお見舞いしてみせた。
それをコナーは反対の手で相殺し。
鈍い音を立て互いに衝突したかと思えば、双方後ろへと下がって距離を取り…
二連三連とまた追撃に転じる。
対峙するふたりは、共に笑みを浮かべており…
まだまだ序盤戦、どちらにも余裕の色が伺えた。
「キミは魔法専門じゃないの?」
一方此方は魔法を得意とするルナーと、彼に対峙するロロ。
少し離れた位置で肉弾戦を展開するジーナ達とは真逆に。一定の距離を保ち、相手の出方を見計らう。
「心配には及ばないよ。」
不敵に返すルナーはニヤリと笑むと、細身の杖の先がハンマーのような武器を前に掲げて。
何かしらの術を発動させると、それを自身へと付与させていった。
しばらくすれば、少年の身体は灰がかった光を纏い出し…
「強化魔法か…なら手加減しなくても良さそうだね。」
ロロも敢えてコナーを真似るようメイスを構え、その身体に暖色の光を纏わせる。
魔力の質からして、その魔法はアシュが良く使っている地属性の強化魔法だろうか。
挑発的なロロの行動を尻目に、蔑んだ視線を向けるルナー。しばらく睨み合った後、彼らもまた弾丸のように駆け出した。
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