362 / 423

「何か、来るぞっ…!!」 魔族の術者達は杖の先端を付き合わせ、一ヶ所に魔力を集めていき。 それは空宙で禍々しい巨大な渦を形成し…異様な気配を放出する。 …と、渦は段々と形作られていって… 「なっ…」 想像を絶する光景を前に、オレは堪らずへたり込む。 だってさ…今までだって何度も何度も、巨大で恐ろしい魔物を目の当たりにしてきたんだ。 それでも…まさか、 「ドラゴンまで、いんの…」 ゲームや漫画でのイメージからで云えば、小さい方…なのかもしれない。 しかし目の前のそれは、今まで見てきたどの魔物よりも遥かに大きくて…。 赤黒い鱗に覆われた皮膚は、一見しなやかに見えて凄く頑なで…剣では歯が立たないように思える。 何より恐ろしいのは、人間なんか一瞬で食い千切ってしまえそうな大きな口。 更にはそこから覗く、鋭い牙にギロリと動く爬虫類の目…そんなので睨まれようものなら。 無力なオレなんて睨まれた蛙。身体は勝手に震え出し、その場から動けなくなってしまうのはもう…必然でしかなかった。 「セツ…!!」 小型の魔物を凪払いながらルーが叫ぶものの。 オレは反応すら出来ず、赤い竜を見上げたまま恐怖に駆られ後退る。が… 身体は全く、云うことを聞かないから…。 「神子を殺せッ!!」 そうしてる間に、術者の魔族が好機とばかりに狂気し叫び…呼応する竜は太くしなやかな首を、オレへと向けてきて。 堪らず喉の奥が恐怖し…笛のような音を鳴らした。 『ガアアァ──────…!!!』 命令に従い、標準をオレへと定めた赤竜が真っ赤な口を開き咆哮すると。 刹那、ピィーン…と耳鳴りのような音が、それに混ざって鼓膜を(つんざ)き… 「セツ殿…!!」 ルーやオリバーさん達は皆、魔族や魔物に阻まれ、なかなか思うように身動きが取れず… 独りへたり込むオレは、ただ茫然として赤い竜を見上げるばかり。 ついには、 「くそっ…!」 竜が口から放つのは、巨大な火球。 それは勢い良く散り散りに、幾つも吐き出され… そのひとつが、オレ目掛けて飛んでくるけど。 身体は震え、思考も何もかもが恐怖に支配されて。 これではもう──── (ひっ…) 死を覚悟する間さえ与えられず、オレは無意識に目を瞑る。 確実に炎に飲まれる、そう悟った瞬間。 「セツ…!!」 炎の熱風に晒される最中、 ルーの声が何故かすぐ耳元で聞こえて。 「えっ……る、う…?」 いつまでも来ない衝撃を不思議に思い、 目を開けば…視界にはルーの顔。 気付けばオレの身体は、抱き抱えられており… 予想外の展開に、つい放心してしまった。

ともだちにシェアしよう!