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⑤
「何か、来るぞっ…!!」
魔族の術者達は杖の先端を付き合わせ、一ヶ所に魔力を集めていき。
それは空宙で禍々しい巨大な渦を形成し…異様な気配を放出する。
…と、渦は段々と形作られていって…
「なっ…」
想像を絶する光景を前に、オレは堪らずへたり込む。
だってさ…今までだって何度も何度も、巨大で恐ろしい魔物を目の当たりにしてきたんだ。
それでも…まさか、
「ドラゴンまで、いんの…」
ゲームや漫画でのイメージからで云えば、小さい方…なのかもしれない。
しかし目の前のそれは、今まで見てきたどの魔物よりも遥かに大きくて…。
赤黒い鱗に覆われた皮膚は、一見しなやかに見えて凄く頑なで…剣では歯が立たないように思える。
何より恐ろしいのは、人間なんか一瞬で食い千切ってしまえそうな大きな口。
更にはそこから覗く、鋭い牙にギロリと動く爬虫類の目…そんなので睨まれようものなら。
無力なオレなんて睨まれた蛙。身体は勝手に震え出し、その場から動けなくなってしまうのはもう…必然でしかなかった。
「セツ…!!」
小型の魔物を凪払いながらルーが叫ぶものの。
オレは反応すら出来ず、赤い竜を見上げたまま恐怖に駆られ後退る。が…
身体は全く、云うことを聞かないから…。
「神子を殺せッ!!」
そうしてる間に、術者の魔族が好機とばかりに狂気し叫び…呼応する竜は太くしなやかな首を、オレへと向けてきて。
堪らず喉の奥が恐怖し…笛のような音を鳴らした。
『ガアアァ──────…!!!』
命令に従い、標準をオレへと定めた赤竜が真っ赤な口を開き咆哮すると。
刹那、ピィーン…と耳鳴りのような音が、それに混ざって鼓膜を劈 き…
「セツ殿…!!」
ルーやオリバーさん達は皆、魔族や魔物に阻まれ、なかなか思うように身動きが取れず…
独りへたり込むオレは、ただ茫然として赤い竜を見上げるばかり。
ついには、
「くそっ…!」
竜が口から放つのは、巨大な火球。
それは勢い良く散り散りに、幾つも吐き出され…
そのひとつが、オレ目掛けて飛んでくるけど。
身体は震え、思考も何もかもが恐怖に支配されて。
これではもう────
(ひっ…)
死を覚悟する間さえ与えられず、オレは無意識に目を瞑る。
確実に炎に飲まれる、そう悟った瞬間。
「セツ…!!」
炎の熱風に晒される最中、
ルーの声が何故かすぐ耳元で聞こえて。
「えっ……る、う…?」
いつまでも来ない衝撃を不思議に思い、
目を開けば…視界にはルーの顔。
気付けばオレの身体は、抱き抱えられており…
予想外の展開に、つい放心してしまった。
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