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⑥
「セツ、怪我は?」
オレを抱えるルーが簡潔に問う。
何がなんだか…混乱して、上手く状況が呑み込めなかったけれど…。どうやら赤い竜の火球が直撃する寸前で、ルーが助けてくれたみたいだ。
オレがさっきまで腰を抜かしてた場所は、熱と衝撃で地面が溶け。恐ろしいことになっていたし…。
最悪の事態を頭で想像し、思わず背筋が凍り付いた。
「あっ、少しヒリヒリするけど…」
アシュが事前に掛けてくれた、守護魔法のおかげか。軽い火傷と、髪の毛が少し焦げちゃったくらいで済んだようで。
特に問題ないと答えれば、ルーは安堵の息を吐く。
そこでやっと冷静になれたから、気が付いたけど…
ルーの身体は淡く発光しており。
その光から、オレ…神子と同じような性質のものを感じたから。
もしかすると、ルーも何か魔法を使ったんだろうか?
「ルー、それって…」
「説明は後だ、このまま走るぞ!」
「えっ…あ、うんっ…」
オレの言葉を遮り、城の入り口へと向かって走り出すルー。戸惑いつつも落ちないよう、オレは慌ててルーへとしがみつく。
「アシュ、オリバー殿!」
「りょーかい~、もう向かってるよ~!」
「援護は任せてくれ!」
駆けながら合図を送れば、既にふたりはルーの後を追走しており。シロエさん達も少し遅れながら、それに続いていた。
「神子を逃すなっ、追撃しろ…!」
ジークリッドが待つ城内へは、入れたくないのか…魔族達は苛立ったよう、がなりながら竜をけしかける。
命令を受けた赤い竜は唸り声を上げると、その巨体を此方へと翻し。地響きを起こしながら、向かって来るから。
ルー達がオレを連れ、猛スピードで庭園を駆け抜けてはいるけど…このままではあの竜に、進路を塞がれてしまいそうだ。
「ひっ…」
あんな規格外な魔物は初めてで。恐々として身体が勝手に震え出す。
そうして無意識に助けを求めて、ルーの胸元を強く掴んでいれば…
「大丈夫だ。」
「るっ…」
凛とした声音で、ルーが告げるから。
泣きそうになるのを堪えるよう、縋る思いでその胸へと頭を埋めた。
するとルーは速度は緩めぬまま、右前方から迫り来る竜を見上げて。
「セツを傷付けるならば、何であろうと容赦はしない…」
唸るよう、小さく言い放った途端、再度ルーの身体が光り始め…。錬成された魔力の塊が、自身の周囲に幾つも生み出されていく。
それら水と風が瞬時に混ざり、ひやりとした冷気を纏えば。槍の穂先の如く鋭い氷の刃へと成していった。
「これは見事だな…」
斜め後ろを行くオリバーさんが、感嘆するほどの力。
魔法精度は、今までとは比べものにならないのに。
加えてルーはオレを両手に抱え走りながら、魔法を発現させているんだから…。
まだまだ素人のオレから見ても、その光景は。息を呑むほどのものだった。
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