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「セツ、怪我は?」 オレを抱えるルーが簡潔に問う。 何がなんだか…混乱して、上手く状況が呑み込めなかったけれど…。どうやら赤い竜の火球が直撃する寸前で、ルーが助けてくれたみたいだ。 オレがさっきまで腰を抜かしてた場所は、熱と衝撃で地面が溶け。恐ろしいことになっていたし…。 最悪の事態を頭で想像し、思わず背筋が凍り付いた。 「あっ、少しヒリヒリするけど…」 アシュが事前に掛けてくれた、守護魔法のおかげか。軽い火傷と、髪の毛が少し焦げちゃったくらいで済んだようで。 特に問題ないと答えれば、ルーは安堵の息を吐く。 そこでやっと冷静になれたから、気が付いたけど… ルーの身体は淡く発光しており。 その光から、オレ…神子と同じような性質のものを感じたから。 もしかすると、ルーも何か魔法を使ったんだろうか? 「ルー、それって…」 「説明は後だ、このまま走るぞ!」 「えっ…あ、うんっ…」 オレの言葉を遮り、城の入り口へと向かって走り出すルー。戸惑いつつも落ちないよう、オレは慌ててルーへとしがみつく。 「アシュ、オリバー殿!」 「りょーかい~、もう向かってるよ~!」 「援護は任せてくれ!」 駆けながら合図を送れば、既にふたりはルーの後を追走しており。シロエさん達も少し遅れながら、それに続いていた。 「神子を逃すなっ、追撃しろ…!」 ジークリッドが待つ城内へは、入れたくないのか…魔族達は苛立ったよう、がなりながら竜をけしかける。 命令を受けた赤い竜は唸り声を上げると、その巨体を此方へと翻し。地響きを起こしながら、向かって来るから。 ルー達がオレを連れ、猛スピードで庭園を駆け抜けてはいるけど…このままではあの竜に、進路を塞がれてしまいそうだ。 「ひっ…」 あんな規格外な魔物は初めてで。恐々として身体が勝手に震え出す。 そうして無意識に助けを求めて、ルーの胸元を強く掴んでいれば… 「大丈夫だ。」 「るっ…」 凛とした声音で、ルーが告げるから。 泣きそうになるのを堪えるよう、縋る思いでその胸へと頭を埋めた。 するとルーは速度は緩めぬまま、右前方から迫り来る竜を見上げて。 「セツを傷付けるならば、何であろうと容赦はしない…」 唸るよう、小さく言い放った途端、再度ルーの身体が光り始め…。錬成された魔力の塊が、自身の周囲に幾つも生み出されていく。 それら水と風が瞬時に混ざり、ひやりとした冷気を纏えば。槍の穂先の如く鋭い氷の刃へと成していった。 「これは見事だな…」 斜め後ろを行くオリバーさんが、感嘆するほどの力。 魔法精度は、今までとは比べものにならないのに。 加えてルーはオレを両手に抱え走りながら、魔法を発現させているんだから…。 まだまだ素人のオレから見ても、その光景は。息を呑むほどのものだった。

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