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「王の間って、場所は分かってるの?」 先を行くアシュもオリバーさんも、何やら話ながらではあるものの。城内を行くその足並みには、迷いは全く感じられない。 オレが心許なくキョロキョロと辺りを見渡せば… 隣を歩くルーが、ああ…と反応して答えた。 「騎士団は訓練生の時に必ず、全ての聖域を回っているからな。」 正式に騎士となれば、結界の経過観察や魔物の討伐等で度々訪れるというし。 「神子がいつ現れるか、はっきりとは判らないからねぇ。僕ら騎士団が、対処出来るようにしておかないと。いざって時に困るでしょ?」 会話を聞いていたアシュも振り返り、ウィンクしてみせた。 そう考えると、フェレスティナのその姿勢には驚かされる。 だって神子が現れるのって大体200年前後の周期だろ?それを見越して、ずっと万全な状態を維持していくだなんて…オレには想像も出来ないよ。 人間なんて長生きしても、100年くらいしか生きられないのにさ…。先の未来の為にとか…なかなか出来ることじゃないよね。 「外の様子も気掛かりだし…我々も先を急ごう。」 「そうですね。セツ、王の間は上階の最奥にあるから…」 オリバーさんを先頭に、ルーとオレが続き。殿(しんがり)にはアシュが控え。 一路、ジークリッドの元を目指す。 「城って聞いてたけど…造りは神子屋敷に近いよね。」 規模はその何倍もありそうだが… フェレスティナの宮殿なんかとは違い、建物自体は港街の元貴族の所有物だったっていう、騎士団の施設とか…お城より御屋敷といった雰囲気に近いというか。 魔王城のイメージとは、凡そ違っていた。 もっとこう、不気味で禍々しいものを想像してたからね…。 と、不思議そうに城内を観察していたら。 律儀にもまた、ルー達が説明してくれた。 「魔王城という名称は、我々人間がそう呼んでいるに過ぎないからな。」 「魔王が住んでいた住居なので、単純に“城”と解釈しただけなのですよ。」 元々は、魔族の中で最も強い者を“魔王”と位置付けたのも人間であり。魔族は生来、国を築いたりといった秩序に縛られる人種でもないらしく。 長い歴史の中でも、こうした場所は殆ど存在しないのだそうで…。 「初代魔王は、魔族の中でも相当な変わり者だったって文献にも残るくらいだからね。敢えて言うなら、妙に人間臭いというかさ…。」 だから唯一城を築いて、仲間を募り共生してたというし。 色々学んできたつもりではあったけど。 こうしてみると、まだまだこの世界のこと…知らないことだらけなんだなぁと思う。 「上に行くなら、中庭を抜けて行く方が早いな。」 先頭のオリバーさんに従い。 入って来た扉から、真正面にホールを進んで行く。 城内は不気味なほど静まり返っているため。 オレ達の足音だけが響き渡り…嫌でも緊張感を煽られる。 灯りも壁に点々と設置された、魔石灯の僅かな光しかなく…揺らめく影が、更にそれを助長していった。

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