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「セツ、何があるか判らないから…」 「ん…」 中庭に続くという扉の前で、ルーが静かに警告し… オレはゴクリと息を飲む。 それから3人は目配せすると…オリバーさんが扉に手を掛け、勢い良く開け放った。 途端に外光が視界いっぱいに広がり、目が眩む。 「慎重に行こう。」 ざっと周囲を確認してから、中庭へと足を踏み入れる。 城の中だというのに、そこは屋外のように明るくて…。 見上げると吹き抜ける天井の先には、所々に薄汚れたステンドグラスのような天窓が見えた。 庭というだけあってか、真ん中の渡り廊下を挟む両側には花壇や噴水といった物が設置されている。 それらの殆どは、古びて機能してなかったけれど…。 「建物内に、こんな広い庭まであるのか…。」 随分と老朽化はしているものの、造り自体はしっかりしていたし。デザインもお洒落で豪華というか… 全盛期であればきっと美しかったんだろうなと、容易に想像出来る。 今はもう当然ながら魔族は住んでいないし。 聖域として国が管理しているのだろうけど…。 魔族にも人と変わらない営みがあったんだなって思うと、妙な気持ちを覚えてしまう。 だからと言って…このモヤモヤしたものが何かまでは、自分でも解らなかったが…。 「待て…!」 黙々と中庭の渡り廊下を抜けていると… ルーが制止するよう声を発し。 前後のふたりも武器に手を掛け、四方へと神経を研ぎ澄ませる。 すると… 「先に気付くとはな…やるじゃねぇか。」 「ラルゴ…!」 前触れも無く、正面から突然現れたのは魔族のラルゴで。敵前にも関わらず、無防備且つ飄々とした様子でルーへと視線を向ける。 「そうピリピリすんな。城ん中には、俺とジーク…後はティンカしかいねぇからよ。」 警戒心を露にするオレ達に対し、ラルゴは軽い口調で告げるけど…。 ルー達はあくまで慎重に、剣に手を掛けたまま。 オレを隠すよう身構えた。 「んな怖ぇ顔しなくても、俺は神子に興味なんざ微塵も無ぇよ。」 それでもラルゴは、魔族らしからぬ台詞を平気で口にし。次にはオリバーさんの方に向け、手持ちの戦斧を振り下ろす。 「せっかくのタイマンだ。邪魔が入ったら、つまんねぇだろ?」 ニヤリと挑発的に笑むラルゴを、オリバーさんはじっと見つめ返し。 「…そうだな。」 彼もまた笑みを浮かべ、ゆっくり前へ進み出ると…すらりと大剣を引き抜いた。 「オリバーさん…」 張りつめた緊張感に駆られ一歩、大きな背中に声を掛けると…。彼は顔だけで一度オレを振り返り、黙って優しく微笑んでみせるから。 ルーにも無言で諭されつつ、オレは不安に揺らぐ胸を抑え、思い留まった。

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