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「お前には…感謝している。」 両手に剣を構え、徐にオリバーさんが口を開く。 その表情までは見えなかったけれど… 「守護騎士に選ばれなかった私を。こうして…この瞬間に、立ち会わせてくれたのだからな。」 その声音は、今から戦うとは思えないほど清々しく。 いつもの大人びた彼とは一変して。 まるで無邪気に胸踊らせる、少年のような響きを思わせるから。 「ふ…俺はただ、楽しみたいだけだ。」 ラルゴもまた、同じように。悪戯な笑みを湛えていた。 「騎士なんざ、お堅い輩の集まりだと思ってたんだがな…。お前も実は同族なんじゃねぇの?」 売られた喧嘩に、負ける気なんか更々無いだろ?と、ラルゴが皮肉混じりに問えば。 「…否定はしない。」 オリバーさんは今だけ騎士ではなく、ひとりの男として…不敵に応えてみせた。 「…………」 対峙するふたりは互いを探り合うかのよう、微動だにせず。暫くの間、沈黙と睨み合いが続いていたが─── 「…そういうわけだから、俺の邪魔だけはすんじゃねぇぞ、ティンカ。」 視線は逸らさず、ぽつりとラルゴは告げて。 「…解ってるよ。」 ラルゴの巨体に隠れ気付かなかったが…その背後には、見知った人影があり。 影は気配も無く、ゆっくりと死角から姿を現す。 (ティンカ…) 以前会った時とは違い、これが本来の姿なのか… 透き通る肌と、金糸の長髪の美しさは変わらず。 けれど耳は長く尖り、エメラルド色だったはずの瞳は赤暗く、感情の光をほとんど伴わない。 「僕は神子さえいなくなれば、良いから────」 ラルゴの背後に佇むティンカの瞳だけが、オレを映し捕らえて。 「…───ね?」 「っ…!」 まるで金縛りのように動けないでいたら。 誰もいないはずの背後から、いきなり殺気めいた感情が押し寄せ、 咄嗟に振り返るけれど──── 「おっと。」 反応出来ないオレの腕は、間一髪ルーに寄って引かれ…背後に迫る殺意は、割って入ったアシュの守護魔法によって防がれた。 ラルゴの近くにいたはずのティンカは、何故か目の前におり…悔しげに、アシュを睨み付けている。 「君の相手なら、この僕がしてあげるよ?」 綺麗なコは大歓迎だよと、にっこり微笑むアシュだけど。 その内には、いつもの穏やかさ見受けられず… 訝しむティンカは、不快げに舌打ちを漏らしながら。後退りするようアシュと距離を取った。

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