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「邪魔するなら、全員殺してやる…。」 「そんな野蛮な言葉、君には似合わないかなぁ。」 表情を引き攣らさるティンカに対しても… アシュは飄々とした姿勢を崩すことなく、おどけてみせる。 一見すると、隙だらけに見えたけど… その後ろ姿からは、今まで見せたことのないような、気迫のようなものを犇々と感じさせた。 だからだろうか、ティンカはアシュを睨んだまま。 焦れたよう様子を伺っている。 「僕をひとりで相手しようというの?…人間のクセに、とんだ自信家だね。」 「さあ、どうだろうね。しかし僕もそろそろ役に立っておかないと…ジーナ達に合わせる顔が、ないからなぁ。」 面倒そうな素振りながら、ルーは槍を構える。 森の中などでは扱い難いため、剣で戦ってたし。 手にしたそれは、アシュが普段愛用している物よりは短く、小振りに見えたが…。 アシュが魔力を込めると、穂先の部分に金色の刃が加算され…その分、長さが増していく。 こんな風に魔法で、臨機応変に。 短所を補う方法もあるんだなぁと…オレは思わず感嘆の声を漏らした。 「おらよッ…!」 「ふっ…やるじゃないか…」 一方、彼方ではラルゴとオリバーさんの戦いが、既に始まっており。 広い中庭の離れた場所で、接戦を繰り広げていた。 と… 「ルー!」 「承知している。」 アシュが名を呼ぶだけで理解するルーは。 すぐさまオレの手を引き、庭園の外れまで移動してく。 「僕はだから。普段はあまり、前衛には立たないんだけど…」 それはきっと、アシュの性格もあるんだろう。 でもそれは、本質にも言えることで。 「気になるコの前では…ちょっと格好付けたく、なるものだよねぇ。」 今は盾を捨て去り、獲物を携える様は… まるで金色の美しい獣のよう。 「なら、恥を掻かせてあげるよ…!」 早い…!ティンカはあっという間に火炎弾を生み出し。アシュに向け、乱発していく。 その精度と鮮やかさは、かなりの実力者であろう双子のルナーを更に上回っていて──── オレは息を呑み、ルーの手をぎゅっと握り締めた。 対するアシュは、ただ無防備に立っているだけに思えたが… 「見事だねぇ…さすが城下の結界を、容易く破るだけはあるよ。」 「…………」 アシュはその場から殆ど身動きせずに。 自らが張り巡らせた防御壁で以て、火炎弾を全て凌いでみせたものだから…凄い。 しかしティンカは、冷めたよう目を細める。 「じゃあ、僕もそろそろ動こうかな。」 トンと靴底と槍の柄を鳴らし、その場で何度か小気味良く跳ねたかと思うと。 アシュは瞬時に地を蹴り、ティンカの元へ自らが打って出る。 「みくびらないで…!」 ティンカも更に強力な魔法を繰り出し、応対していくが…アシュはそれを(ことごと)く槍で切り伏せ、一気に目前まで距離を縮めていった。 ところが… 「……!」 牽制で繰り出した一撃は、ティンカを掠めることすらなく。槍は見えない何かによって弾き返されてしまい… アシュは咄嗟に高く後ろへと跳躍し、間合いを取る。 「ふむ、そう簡単にはいかないか…。」 「残念だったね。この程度の対策くらいは当然でしょう?」 ティンカは得意気に笑うけれど、当の本人はさほど気にした様子もなく。 涼しげな顔でまた、槍を構え直していた。

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