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⑥
「邪魔するなら、全員殺してやる…。」
「そんな野蛮な言葉、君には似合わないかなぁ。」
表情を引き攣らさるティンカに対しても…
アシュは飄々とした姿勢を崩すことなく、おどけてみせる。
一見すると、隙だらけに見えたけど…
その後ろ姿からは、今まで見せたことのないような、気迫のようなものを犇々と感じさせた。
だからだろうか、ティンカはアシュを睨んだまま。
焦れたよう様子を伺っている。
「僕をひとりで相手しようというの?…人間のクセに、とんだ自信家だね。」
「さあ、どうだろうね。しかし僕もそろそろ役に立っておかないと…ジーナ達に合わせる顔が、ないからなぁ。」
面倒そうな素振りながら、ルーは槍を構える。
森の中などでは扱い難いため、剣で戦ってたし。
手にしたそれは、アシュが普段愛用している物よりは短く、小振りに見えたが…。
アシュが魔力を込めると、穂先の部分に金色の刃が加算され…その分、長さが増していく。
こんな風に魔法で、臨機応変に。
短所を補う方法もあるんだなぁと…オレは思わず感嘆の声を漏らした。
「おらよッ…!」
「ふっ…やるじゃないか…」
一方、彼方ではラルゴとオリバーさんの戦いが、既に始まっており。
広い中庭の離れた場所で、接戦を繰り広げていた。
と…
「ルー!」
「承知している。」
アシュが名を呼ぶだけで理解するルーは。
すぐさまオレの手を引き、庭園の外れまで移動してく。
「僕は盾だから。普段はあまり、前衛には立たないんだけど…」
それはきっと、アシュの性格もあるんだろう。
でもそれは、本質にも言えることで。
「気になるコの前では…ちょっと格好付けたく、なるものだよねぇ。」
今は盾を捨て去り、獲物を携える様は…
まるで金色の美しい獣のよう。
「なら、恥を掻かせてあげるよ…!」
早い…!ティンカはあっという間に火炎弾を生み出し。アシュに向け、乱発していく。
その精度と鮮やかさは、かなりの実力者であろう双子のルナーを更に上回っていて────
オレは息を呑み、ルーの手をぎゅっと握り締めた。
対するアシュは、ただ無防備に立っているだけに思えたが…
「見事だねぇ…さすが城下の結界を、容易く破るだけはあるよ。」
「…………」
アシュはその場から殆ど身動きせずに。
自らが張り巡らせた防御壁で以て、火炎弾を全て凌いでみせたものだから…凄い。
しかしティンカは、冷めたよう目を細める。
「じゃあ、僕もそろそろ動こうかな。」
トンと靴底と槍の柄を鳴らし、その場で何度か小気味良く跳ねたかと思うと。
アシュは瞬時に地を蹴り、ティンカの元へ自らが打って出る。
「みくびらないで…!」
ティンカも更に強力な魔法を繰り出し、応対していくが…アシュはそれを悉 く槍で切り伏せ、一気に目前まで距離を縮めていった。
ところが…
「……!」
牽制で繰り出した一撃は、ティンカを掠めることすらなく。槍は見えない何かによって弾き返されてしまい…
アシュは咄嗟に高く後ろへと跳躍し、間合いを取る。
「ふむ、そう簡単にはいかないか…。」
「残念だったね。この程度の対策くらいは当然でしょう?」
ティンカは得意気に笑うけれど、当の本人はさほど気にした様子もなく。
涼しげな顔でまた、槍を構え直していた。
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