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「どうした、もっとガンガン来いよ!」 「ならば…遠慮なく。」 しかしすぐ隣では、オリバーさん達の戦闘が白熱し始め。 広いと云えど建物内、強大な力のぶつかり合いは、それを揺るがす程の勢いだったから…。 ルーがいなければ、オレなんてすぐ巻き込まれてしまいそうだ。 「ここじゃ騒がしくて、落ち着かない…」 ティンカも同じことを思ったのか、うんざりしたよう吐き捨てると。 ゆっくりと、アシュを手招きするよう片手を前に掲げて。次に呪文のようなものを発したかと思えば… パチンッと軽快に指を鳴らす。 「アシュ…!」 その音が耳鳴りのように響いたかと思えば、 アシュとティンカの周辺だけが、グニャリと不自然に歪み始めて。 ふたりの身体が、闇の中へと飲み込まれていくもんだから。 港やジークと対面した時のことを思い出し、 無意識にアシュの元へ駆け寄ろうとしたのだけど…。 「ルー。」 先程のようにアシュがルーを呼べば。 オレの行く手は、やはりその腕に遮られてしまい。 「セツのこと、頼んだよ。このコは僕が留めておくからね。」 敢えてオレではなく、ルーにだけ視線を送り。 受け止めるルーも、交わすそれだけで全てを察した後…ちらりとオレを見やると。 「…ああ。」 短く一言だけで応えて。 認めたアシュはいつもの調子でじゃあねって、軽く手を振りながら… ティンカと共に闇へと溶け込み、 その場から一瞬にして消えてしまった。 「アシュレイ…」 その様子を遠巻きに把握したオリバーさんも、 消える寸前に、此方へ向かおうとはしていたけど… 「おい。」 ラルゴが放った一撃を受け、足止めを食らっていた。 「タイマンだろ?野暮な真似すんじゃねぇよ。」 「くッ…!」 斧を剣で受け止め、鍔迫り合いに。ラルゴが不敵に笑み忠告する。 重そうなそれを、なんとか弾き返すオリバーさんもまた。間合いを取りながらニヤリと笑い返して。 「そうだな…彼には要らぬ心配だった。」 水を差してすまないと謝罪しながら。 オリバーさんの目は、わざと挑発するよう不敵に細められていた。 「人間なんざ、クソつまんねぇ生き物だと…馬鹿にしてたんだがな。」 戦斧を振り回しながら、まるで世間話でもするかのよう淡々と話すラルゴ。 オリバーさんも涼しげな顔で以て、繰り出される攻撃を軽々と受け流していく。 「お前みてぇなヤツは特にな…けどよ。意外と嫌いじゃねぇだろ?」 こういう…強い相手を前にした瞬間に、昂る衝動が。 「否定はしない…が、私は神子に仕える身。そう勝手の出来る身ではないからな。」 あっさりと肯定しながらも、あくまで己を律し… 騎士の本分を弁えるオリバーさん。 「はっ…忠誠心とやらか、難儀なもんだな。」 「私とて、譲れぬものがあるからな。」 呆れ口調で嘆息するラルゴにも、さらりと真顔で返していた。

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