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⑧
「はっ…俺には理解出来ねぇな。」
魔族にありがちな性分として好戦的で破壊的、優劣の基準も至ってシンプルに。強い者が絶対であり、弱者はそれに屈するのが当然だと。
魔族らしからぬように見えて、やはり自分はそれが道理であると説くラルゴ。
それ故に、強い騎士が脆弱な神子に対し。そこまで執着する意味が解らないというのだが…。
「そうか?」
オリバーさんはそうは思わないと告げる。
「お前は、ジークリッドの力に服従しているから此処にいるというのか?」
「あ…?」
ならば…双子やティンカは?
魔族は馴れ合わないと謳いながら、そこにある繋がりは何であるのかと。
…もしかしたら、オリバーさんはラルゴが抱いている特別な感情にも。何かしら、気が付いているのかもしれない。
「魔族も人間もない、お前にも守りたい者が在るからこそ…今、戦っているのではないのか?」
「………」
金属が競り合う音だけが鈍く響き。
ラルゴは黙ったまま、オリバーさんを凝視する。
「少なくとも、お前が理由の無い衝動だけで…行動するとは思えないがな。」
「はっ…」
戦斧で勢い良く大剣を弾き、離れるラルゴは。
一瞬何か思い耽るかのよう、伏し目がちに笑むと。
「ああ、そうだな。そうかもしれねぇな…。」
何処か吹っ切れたように、オリバーさんの言葉を呑み込んでいた。
「どうだ?譲れぬもの、だったろう?」
「…負けるのは性に合わねぇんだよ。」
此処は魔王城。
魔族と人間が決着をつけるために、オレ達はこの場に集っている。
勿論、敗者側に明るい未来などは無くて…
なのにオリバーさんもラルゴも、なんて無邪気に笑うのだろう。
「行けよ、神子。お前も…ジークが待ちくたびれてるぜ。」
ふたりの遣り取りを、遠目から見守っていたオレ達に。ラルゴは目もくれず言い放つ。
一瞬躊躇うオレは、ルーとオリバーさんを見やるけれど…
「心配は無用、私も皆と共に直ぐ参りますから。」
「はっ、言ってくれるじゃねぇか。」
オリバーさんもまた、視線はラルゴを捉えたまま。
しかしその声には迷いなど微塵も感じさせないから。
「オリバー殿、御武運を…。」
「ルーファス、お前もな。」
ルーはオリバーさんと一言交わすと…
オレの手を引いて、真っ直ぐ中庭の出口へと赴いた。
「これで気兼ね無く、暴れられんだろう?」
「お前もな…。」
扉が閉じる寸前、そんな会話が聞こえてきたけれど。
オレは決して振り返らず、次には扉越しに。
開戦を知らしめる金属音が重々しく轟き渡った。
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