374 / 423

「…………」 少しだけ前を行くルーの背中を(しるべ)に、王の間を目指して廊下を進む。 ルーはオレの手を引きながら、緊迫した空気を張り巡らせていた。一言も喋らず、ただ黙々と先へ進んで行く。 ジーナもロロもヴィンも、アシュもオリバーさんも誰もいなくて。今尚、戦っているはずなのに…怖いくらい此処は静かで。 物音ひとつ耳に届いてはこないから。 不安はただただ増していくばかりだった。 折れそうなこの心を支えているのは、 今は…この背中だけ。 二人分の足音が、余計に動揺を煽ってくるけれど…。なんとか平常心を保とうとして、手の温もりを強く握り締めた。 …すると、更に強い力が。オレのそれを優しく包み込む。 「不安か…?」 「…ん、でも…」 平気。ルーがいてくれるなら…振り返る気配に釣られ見上げたら、ルーは静かに微笑んで。 「皆の事は…気になるだろうが、心配は要らない。必ず来ると約束しただろう?それまでは私が、セツを護り抜いてみせるから。」 そう、みんなと約束したからと。 ルーはオレを気遣うよう、悪戯に笑ってみせる。 …らしくないくせに、優しいんだルーは。 「うん…ありがと。」 みんなの事は心配でしょうがないけど。 ここまで来たらもう、先に進むしかないんだし…。 一抹の不安を抱きつつも、ルーに励まされたオレは。もう一度だけ、縋るように…手を強く握った。 「とりあえず2階へ上がろう。その方が、いざと言う時に効率が良いから。」 中庭を出てすぐの場所からも、王の間へと通じる扉があるにはあるんだけど…。そこは敢えてスルーして、2階に上がるための階段の方を辿って行く。 真っ直ぐその扉から王の間を目指す方が、最短ではあるらしいのだが…。 そこからだと王の間へと上がるためには、屋外に面した階段を上がらなければならず…。 すぐ真下には断崖絶壁が控え、万が一奇襲を受けた場合危険を伴うから。 ルーひとりで、オレというお荷物を守らなきゃいけないことを考えれば。より堅実な方を…というわけである。 「あ…」 薄暗く静寂な城内を慎重に進み、階段を抜けて行くと。急に屋外の明かりが差し込んできて、つい目を細める。 視界を庇う指の隙間から、建物の奥に繋がる渡り廊下の先に、塔のようなものが見えたから…。 あれが王の間、なんだろうか?

ともだちにシェアしよう!