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「この先をを行けば、すぐ魔王城だ。…行けるか、セツ?」 目の前の塔を見上げ立ち尽くすオレを見つめ、ルーが静やかに問う。 約束の期限はとっくに過ぎているし。 今すぐにでも行かなきゃ…なんだろうけど。 いざとなると、あの夜のことが頭を過ってしまうから…。 つい、躊躇してしまう。 返事が出来ず、俯いていると。 ルーの手がそっと、オレの肩へと添えられた。 「焦らなくて良い。セツの気持ちが落ち着くまで待つから。」 「うんっ…」 心中を察してくれるルーは子どもをあやすよう、くしゃりと頭を撫でてくれる。 オレも緊張を振り払うべく、深呼吸していたら… 「!…あれは────…」 「えっ…ルー…?」 何かに気付いたルーが、突然オレの手を引いて歩き出して。 わけも分からずされるがまま、スタスタと王の間へ続く渡り廊下の方へと…進んで行くものだから。 困惑しながらも、黙ってついて行くと─── 「おや、誰かと思えば…ルーにセツじゃないか。」 「えっえ……アシュっ…!!?」 何がどうなってるんだろう…? 先程、中庭でティンカと共に異空間へ消えてしまったはずのアシュが。何故か今、目の前に…いて。 驚愕するあまり、オレは固まってしまった。 「なん───…あっ、怪我…」 「あははっ、大したことはないんだよ。」 経緯はさておき、アシュは王の間を繋ぐ渡り廊下の、ちょうど中間にあたる、広い部分に座り込んでいて。 平気だと虚勢を張ってはいても、壁を背もたれにしながら…良く見ると、身体のあちこちから血を流していたもんだから。 呼吸も少し荒いし、どう見ても大したことあると思うんだけど…。 「すぐに治すからっ…」 尚も遠慮するアシュは無視して、オレは勝手に治癒を始める。 「何があったんだ?しかも何故(なにゆえ)、此処に…」 「あ───…」 怪訝に問うルーを見上げるアシュは、一度大きく嘆息すると。苦笑を浮かべながら、これまでのことをゆっくりと語り出した。 「あの後、僕はティンカに異空間へと、連れて来られたわけだけど…」 中庭から消え去った2人は、ティンカの術で造られた空間内で戦うこととなり…。魔族にとって有利な展開ながら、アシュもどうにか応戦していたのだという。 『人間のクセに、しぶといね…早く片付けて、神子を始末しなきゃいけないのに…』 なかなか倒れないアシュに痺れを切らすティンカは、段々と苛立ち始め。 何かに勘づいたアシュは、それを確かめるため… 彼へと疑問を投げ掛けた。 『君はどうしてセツ…神子を、それほどまでに嫌うのかな?』 『は…?魔族が神子を憎む理由なんて、ひとつに決まってるでしょう?』 アシュの問いに対し、あからさま嫌悪するティンカ。その反応は、至極当然だと思うけれど…。 『そう?君の場合は…神子と魔族の因縁なんて、関係無いように思えるけどねぇ。』 君の理由は独りよがりじゃない?───… アシュの言葉は的を射ていたのか、その表情は徐々に陰りを見せ始めていた。

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