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⑩
「この先をを行けば、すぐ魔王城だ。…行けるか、セツ?」
目の前の塔を見上げ立ち尽くすオレを見つめ、ルーが静やかに問う。
約束の期限はとっくに過ぎているし。
今すぐにでも行かなきゃ…なんだろうけど。
いざとなると、あの夜のことが頭を過ってしまうから…。
つい、躊躇してしまう。
返事が出来ず、俯いていると。
ルーの手がそっと、オレの肩へと添えられた。
「焦らなくて良い。セツの気持ちが落ち着くまで待つから。」
「うんっ…」
心中を察してくれるルーは子どもをあやすよう、くしゃりと頭を撫でてくれる。
オレも緊張を振り払うべく、深呼吸していたら…
「!…あれは────…」
「えっ…ルー…?」
何かに気付いたルーが、突然オレの手を引いて歩き出して。
わけも分からずされるがまま、スタスタと王の間へ続く渡り廊下の方へと…進んで行くものだから。
困惑しながらも、黙ってついて行くと───
「おや、誰かと思えば…ルーにセツじゃないか。」
「えっえ……アシュっ…!!?」
何がどうなってるんだろう…?
先程、中庭でティンカと共に異空間へ消えてしまったはずのアシュが。何故か今、目の前に…いて。
驚愕するあまり、オレは固まってしまった。
「なん───…あっ、怪我…」
「あははっ、大したことはないんだよ。」
経緯はさておき、アシュは王の間を繋ぐ渡り廊下の、ちょうど中間にあたる、広い部分に座り込んでいて。
平気だと虚勢を張ってはいても、壁を背もたれにしながら…良く見ると、身体のあちこちから血を流していたもんだから。
呼吸も少し荒いし、どう見ても大したことあると思うんだけど…。
「すぐに治すからっ…」
尚も遠慮するアシュは無視して、オレは勝手に治癒を始める。
「何があったんだ?しかも何故 、此処に…」
「あ───…」
怪訝に問うルーを見上げるアシュは、一度大きく嘆息すると。苦笑を浮かべながら、これまでのことをゆっくりと語り出した。
「あの後、僕はティンカに異空間へと、連れて来られたわけだけど…」
中庭から消え去った2人は、ティンカの術で造られた空間内で戦うこととなり…。魔族にとって有利な展開ながら、アシュもどうにか応戦していたのだという。
『人間のクセに、しぶといね…早く片付けて、神子を始末しなきゃいけないのに…』
なかなか倒れないアシュに痺れを切らすティンカは、段々と苛立ち始め。
何かに勘づいたアシュは、それを確かめるため…
彼へと疑問を投げ掛けた。
『君はどうしてセツ…神子を、それほどまでに嫌うのかな?』
『は…?魔族が神子を憎む理由なんて、ひとつに決まってるでしょう?』
アシュの問いに対し、あからさま嫌悪するティンカ。その反応は、至極当然だと思うけれど…。
『そう?君の場合は…神子と魔族の因縁なんて、関係無いように思えるけどねぇ。』
君の理由は独りよがりじゃない?───…
アシュの言葉は的を射ていたのか、その表情は徐々に陰りを見せ始めていた。
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