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『現に君は、ジークリッドやラルゴの意に反して行動を起こしていたようだし…』 『それはジークが馬鹿な事を言い出すからっ…!』 魔族が日の目を見るためには、手っ取り早く神子を殺してしまえば済むこと。 それが魔族の…ジークのためなのだから───…と。 『本当に?』 いつもの柔軟な雰囲気を隠し、じっとティンカを見据えるアシュに。冷ややかな視線が突き返される。 『っ…魔族が神子と交わるだなんて、有り得ないでしょうっ…!?』 淡々と、尋問するかのよう述べるアシュに耐え切れず、声を荒げるティンカ。 そうして取り乱す姿を見て、アシュの予想は確信へと変わっていった。 『同族が道を誤れば、正すのは当然のこと…なら取り返しがつかなくなる前に。神子を消してしまえば、ジークだってきっと…』 戦いの最中であるのも忘れ、感情的になるティンカは。か細い拳を握り締め…取り乱す。 そんな憐れな様子の青年に。 アシュは更に、衝撃の台詞を言い放つ。 『好きなんだね、君は…魔王ジークリッドの事が。』 『なっ…』 言葉にして暴かれた本音。 するとティンカは、動揺と共に拒絶を露にする。 『恋とは残酷なものだね。本来の君は、軽々しく野蛮な事を口走るような子では…ないだろうに。』 告げてアシュは、同情するかのよう微笑む。 『魔族は元より野蛮な生き物。それこそお前達人間が、良く理解しているでしょう?』 『そうだね、僕もずっとそう思っていたけれど…。今は少し、違うかな。』 ────君やラルゴを見ていると。 その考えは、話を聞いてたオレにも共感出来ることで。 『百聞は一見に如かず…やはり何事も、自らの目で見極めなきゃ。真実は見えてこないものだよ。』 だからこそ君とも解り合えるんじゃないだろうか? 寄り添うよう、微笑むアシュを。 ティンカは眉を潜めながら後退った。 『出来れば君みたいな子とは、戦いたくはないからね。』 その気持ちを伝えてみたらどう?…と。 出会って間もない魔族に向け。唐突にアシュは、諭すよう進言する。 『君の心はまだ、魔王には知られていないのだろう?このままでは君も前には──』 『余計なお世話だっ…!!』 堪り兼ねたティンカは憤慨し、勢い良く手を払うと…瞬時に氷の刃を生み出し、アシュに向け解き放つ。 咄嗟に防御魔法を展開したアシュだったが… 僅かに遅れを取り、何発か食らってしまった。 刃に切り裂かれた箇所が、赤く凍り付く。 『人間の戯言なんてっ…』 惑わされない…吐き捨てるティンカは怒りに任せ、再度魔法を繰り出そうと試みたが… 『なっ…』 突如耳鳴りのような音が、空間内に鳴り響き。 弾かれ辺りを見渡すと、造り物の空間は音を立てて崩れ始める。 件の術者たる本人も、この状況は想定外なのか… ティンカはその場で茫然と立ち尽くしてしまった。 『どうやらこの場を維持するには、かなりの精神力を要するみたいだね。君自身の心が乱れ過ぎると…制御出来なくなるのかな?』 『ッ…違う!!』 金糸の長髪を揺らし否定しながらも。それは如実に影響を及ぼしており… 崩壊は、加速の一途を辿る。 『違う…僕はっ…』 異様な光景の中、膝から崩れ落ちるティンカが余りに儚げに思え… アシュは咄嗟に彼へと手を伸ばしてみたけれど───

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