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ズシリと重い斬撃が、中庭に鳴り響き。 剣圧だけで互いの身体にピシリと赤い亀裂が走る。 どちらも極限にまでに精神を研ぎ澄ませた、見事な戦いぶりだった。しかし─── 『っ……!』 最中、ほんの僅かな一瞬…ラルゴの動きが鈍くなり。オリバーさんが放っていた一撃が、彼の腹を引き裂く。 『チッ…しくじったな…』 咄嗟にも回避を試みていたため、致命傷とまでは至らなかったものの。 ラルゴの表情には、何か焦りのようなものが滲み出ていて…。 『気を抜くとは…らしくないのではないか?』 腑に落ちないオリバーさんは、訝しげに問うも。 『…こんくらい、問題ねぇよ。』 ラルゴは何事もなかったようにまた、斧を構え直した。言葉に反し、彼の腹からは鮮血が滲み出ている。 『……………』 傍目からは誰にも判らないほど、ラルゴは努めて平静を装っていた。 しかし対峙するオリバーさんには、僅かな心の乱れが手に取るように判ってしまい。 何故なら… 『…ティンカという魔族が、気になるのだろう?』 『…………』 『先程、彼の魔力が乱れた気配がしたが…』 ラルゴは答えなかったが、表情は固く…感情の一切を消し去ってしまう。 魔族に有利な異空間の崩壊。それが何を意味するのか… 彼にとって特別な存在であろう、ティンカのこととなれば。内心、気が気じゃなかっただろう。 それでもラルゴは、頑なな態度を崩すことはなかったが…。 『悪かったな、水差してよ。気にせず、続けようぜ。』 “違っ…助けて、ジーク…ラルゴ────…!” 『!!』 この時、何処からか…くぐもったような声が僅かに聞こえて。 苦しげに助けを求めるティンカのそれに対し、ラルゴはハッとして思わず辺りを見渡す。 オリバーさんにはラルゴほど、その声が聞き取れてはいなかったが… 『おい…』 『その様子ではもう、勝負どころではないだろう。』 剣を鞘に納めてしまったオリバーさんを、ラルゴは訝しげに睨み付けてくるものの。 『続きを挑むならば、いつでも私はお前の相手となろう。…だが先に、その心配事を片付けて来たらどうだ?』 全力でぶつかれなければ意味がなかろうと、不敵に笑ってみせる騎士を。しばらく無言で凝視していたラルゴもまた、同じような笑みを浮かべて。 『……ならひとつ、貸しにしといてくれよ。』 ラルゴも構えを解き、戦斧を肩へ担ぐと。 捨て台詞と共に闇に溶けるようにして、姿を消してしまった。

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