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「…そういうことならティンカと共に、この先で会えるかもしれないね。」 治療を終えたアシュが立ち上がり、手櫛で前髪を掻き上げる。 「すみません、セツ殿…私までお手を煩わせてしまい…」 「いえいえ、そこまで酷い怪我じゃなかったですから。」 話を聞きながら、オリバーさんとジーナの怪我も治療していく。 そういえばジーナ達は、あの後どうなったんだろう? 竜もまだ倒したわけじゃなかったし。 魔族もいたから、心配だったんだけど…。 「竜は騎士団みんなで、ぶっ倒したよ。双子はゴタゴタしてる間に、まぁた逃げられちまったけどな…。」 赤竜を召喚した魔族も制圧し…ジーナとロロとヴィンは、オレ達の元へ向かうよう騎士団から促され。今に至るのだと説明する。 本来なら、もう少し戦況が落ち着いてから戦線離脱したかったらしいけど。自分達は神子と共に戦えないからと諭され、抜けて来たのだそうだ。 「そっか…とにかく、みんな無事で良かったよ。」 やっぱりみんな揃ってる方が落ち着くよね。 ルーだって今は内心ホッとしたように、表情が幾分か和らいでるし…。 絆っていうか仲間っていうか… なんだかんだ、頼りにしてるんだろうな。 「…で、ジークリッドは、彼処(あそこ)にいるんだよね?」 ロロが示す先を、皆が仰ぎ見る。 言わなくてもきっと、みんな気付いてると思う。 だって王の間の方から、オレにでも判るくらいに…魔王の気配が漂っているからだ。 まるで早く来いよとでも、云わんばかりに…。 『……………』 先程までの穏やかな空気は消え去り、変わって緊張の波が押し寄せて。オレもルー達も口を閉ざし、それぞれ物想いに耽っていたが… 徐に、オリバーさんが口を開く。 「行けるか?…ルーファス。」 真剣な声音に、思わず彼を仰ぎ… すぐさま隣のルーへと、視線を送る。 「セツ殿の加護を受けた身とは云え、一度は敗れ…命をも脅かされた相手。城の結界も破壊されたとなれば、魔王の力も以前の比ではないだろう。」 一歩踏み入れば、フェレスティナの命運を掛けた戦いが…ルーを待ち構えている。 だからこそオリバーさんは、覚悟を見極めるために。敢えて厳しい言葉で以て、訊ねてるんだろうけど…。 (ルー…) オリバーさんの言葉を受け止めるルーの眼差しは、真っ直ぐ彼を捉えており。複雑な想いを抱えるオレは、ざわつく胸をギュッと押さえ込む。 ルーの強さは理解してる、だから信じてないわけじゃない。 それでも万が一の…あの悲劇が、頭を過るから…。 ルーがジークリッドと戦うことに対し、躊躇う自分がいるのも確かだった。

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