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⑮
「…手段を選ばないのであれば、魔族との約束を反古 するという方法も…ありますよ。」
そんな心の葛藤を知ってるかのように、ヴィンが淡々と切り出す。
要はルー独りで戦うのではなく、全員で魔王を仕留めればいいのだと…ヴィンは言っているのだが────
「なっ…そんな卑怯な真似、ルーが出来るわけねぇだろっ…!!」
「それだけ…ルー独りに課せられた責は重い、ということですよ。」
ヴィンの意図ではないのだと、誰もが理解していた。
それでも黙っていられるような話ではなく、ジーナは声を荒げ反論するものの…
ヴィンが言ってることは、最もだったから。
「…もし、ルーが負けちゃったら…非難は免れないよね…。」
言い難そうにぽつりと溢すロロは、悲痛に顔を歪ませる。
「そんな…ルーが悪者扱いされるってこと…?」
「国の存亡が懸かっているんだからね…勝てば英雄だけど、敗れたとなればどうなるかは────嫌でも判るだろう?」
つい感情的になると、アシュもあくまで正論で以てオレを制す。
「それを背負う覚悟が問われているんだ。少しでも迷いがあるのならば、私は非情な選択も吝 かではないと…考えている。」
オリバーさんとて、本来は騎士道を重んじる正義の塊みたいな人だ。
しかし今は、綺麗事を言えるような状況でもなく。
例え邪道と非難されようとも。成さねばならない大義があるのなら、それは尚更…
皆が注目する中、ルーはオリバーさんを見据えながら、オレを一瞥し。
瞑目した後、静かに口を開く。
「私がどのように扱われようと、それは端から覚悟の上。」
それに、と…ルーはもう一度オレを見つめて。
「国の安寧、騎士の面子…大義名分なら幾らでも繕えるが───私は、セツが笑顔でいられる場所を…ただ護りたいんだ。」
「ルー…」
真剣に、けれど僅かな笑みを湛え、宣言する。
「ジークリッドにセツは渡さない…────俺が全て、断ち切りますから。」
魔族とのしがらみを。
それは騎士としてではなく、ひとりの男として。
戦わせて欲しいのだと…ルーはオリバーさんに向け、強く乞う。
瞬きもせず、ふたりは互いを見定めるかのように。誠実に向き合っていたが…
「承知した。ならば私は最後まで見届けよう。」
お前の覚悟を。
応じてオリバーさんはいつものように、優しく微笑んだ。
ジーナ達も心が晴れたよう、緊張を解く。
「ルー…」
泣きそうになるのをぐっと堪え、ルーの袖を握り締めると。ルーはオレの両肩に手を乗せ、目線を通わせてきて…
「私は負けないよ、セツ。」
だから心配は要らないのだと、ルーは迷いもなく言ってのける。
ズルイよ…オレはまだ、こんなにも不安で仕方ないのに。
そんな風に言われちゃったらもう、
信じるしかないじゃんか…。
「絶対だから、約束してよねっ…」
縋る思いで胸へと顔を埋めたら、その腕で強く包み込まれ。
「ああ…約束だ。」
ルーは耳元に口付けるようにして、そう応えてみせた。
「…では、参りましょうか。」
『おお~!!』
ヴィンが告げると、ロロとジーナが盛り立てるよう掛け声を上げる。
ここまで来たら、もう後戻りは出来ないんだから…
オレも覚悟を決めて進まなきゃ。
頼もしい仲間達の背中を見渡しながら、
ふと自身の右手に光るそれにも、祈るよう口付けて。
オレ達はいざ、魔王ジークリッドが待つ王の間へと…赴くのだった。
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