380 / 423

「…手段を選ばないのであれば、魔族との約束を反古(ほご)するという方法も…ありますよ。」 そんな心の葛藤を知ってるかのように、ヴィンが淡々と切り出す。 要はルー独りで戦うのではなく、全員で魔王を仕留めればいいのだと…ヴィンは言っているのだが──── 「なっ…そんな卑怯な真似、ルーが出来るわけねぇだろっ…!!」 「それだけ…ルー独りに課せられた責は重い、ということですよ。」 ヴィンの意図ではないのだと、誰もが理解していた。 それでも黙っていられるような話ではなく、ジーナは声を荒げ反論するものの… ヴィンが言ってることは、最もだったから。 「…もし、ルーが負けちゃったら…非難は免れないよね…。」 言い難そうにぽつりと溢すロロは、悲痛に顔を歪ませる。 「そんな…ルーが悪者扱いされるってこと…?」 「国の存亡が懸かっているんだからね…勝てば英雄だけど、敗れたとなればどうなるかは────嫌でも判るだろう?」 つい感情的になると、アシュもあくまで正論で以てオレを制す。 「それを背負う覚悟が問われているんだ。少しでも迷いがあるのならば、私は非情な選択も(やぶさ)かではないと…考えている。」 オリバーさんとて、本来は騎士道を重んじる正義の塊みたいな人だ。 しかし今は、綺麗事を言えるような状況でもなく。 例え邪道と非難されようとも。成さねばならない大義があるのなら、それは尚更… 皆が注目する中、ルーはオリバーさんを見据えながら、オレを一瞥し。 瞑目した後、静かに口を開く。 「私がどのように扱われようと、それは端から覚悟の上。」 それに、と…ルーはもう一度オレを見つめて。 「国の安寧、騎士の面子…大義名分なら幾らでも繕えるが───私は、セツが笑顔でいられる場所を…ただ護りたいんだ。」 「ルー…」 真剣に、けれど僅かな笑みを湛え、宣言する。  「ジークリッドにセツは渡さない…────俺が全て、断ち切りますから。」 魔族とのしがらみを。 それは騎士としてではなく、ひとりの男として。 戦わせて欲しいのだと…ルーはオリバーさんに向け、強く乞う。 瞬きもせず、ふたりは互いを見定めるかのように。誠実に向き合っていたが… 「承知した。ならば私は最後まで見届けよう。」 お前の覚悟を。 応じてオリバーさんはいつものように、優しく微笑んだ。 ジーナ達も心が晴れたよう、緊張を解く。 「ルー…」 泣きそうになるのをぐっと堪え、ルーの袖を握り締めると。ルーはオレの両肩に手を乗せ、目線を通わせてきて… 「私は負けないよ、セツ。」 だから心配は要らないのだと、ルーは迷いもなく言ってのける。 ズルイよ…オレはまだ、こんなにも不安で仕方ないのに。 そんな風に言われちゃったらもう、 信じるしかないじゃんか…。 「絶対だから、約束してよねっ…」 縋る思いで胸へと顔を埋めたら、その腕で強く包み込まれ。 「ああ…約束だ。」 ルーは耳元に口付けるようにして、そう応えてみせた。 「…では、参りましょうか。」 『おお~!!』 ヴィンが告げると、ロロとジーナが盛り立てるよう掛け声を上げる。 ここまで来たら、もう後戻りは出来ないんだから… オレも覚悟を決めて進まなきゃ。 頼もしい仲間達の背中を見渡しながら、 ふと自身の右手に光るそれにも、祈るよう口付けて。 オレ達はいざ、魔王ジークリッドが待つ王の間へと…赴くのだった。

ともだちにシェアしよう!