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「そうだ神子、お前の名は?」 「えっ…」 思い出したようジークリッドに問われ、あからさま萎縮するオレは。 相変わらずその意図が読めず、戸惑いもあったんだけど…。 「……セツ。」 ジークリッドからは、悪意のようなものが感じられなかったため。 言い淀みながらも、おずおずと名乗れば… 「セツ…お前は必ず、俺のモノにしてやるよ。」 皮肉にも妖艶で美しく、獣のような眼をギラつかせて。ジークリッドは不敵にそう…宣言してみせた。 途端に過去の記憶が蘇り、恐怖心に駆られる。 なのに囚われた獲物の如く、ジークリッドの視線を外せずにいたら… 「セツ。」 震える手を、ルーのそれが包み。強く握られる。 ハッとして、すぐにルーを見上げたら。 「お前は必ず、私が護ってみせるから。」 大丈夫だって、穏やかでいて強かな眼差しが告げるから。 オレの不安はあっという間に振り払われ… 自然と身体の震えも止まっていた。 「はっ、とんだ自信じゃねぇか。なら…前よりもっと楽しませてくれるってことだよな?」 拳を打って慣らし、ニヤリとジークが笑うと。 「お前に負けるつもりなど、二度と…無いからな。」 ルーもスラリと剣を抜き放つ。 その姿からは、目に見えてしまいそうなほどの気迫で満ち溢れており。 対するジークリッドもまた、掴み処のない様子とはいえ。何処か真剣味をその目に宿し… 「同感だ…あんなみっともねぇ思いは、俺も二度とゴメンだからな。」 以前と同じよう、両手に魔力の刃を纏わせた。 (大丈夫、信じてる…) また失うかもしれない恐怖に、 今すぐこの場から逃げ出したくもなるけれど。 ルーは独り、その身を賭して。 フェレスティナのため…オレのためにと、魔王にすら挑もうとしているんだから。 オレが最後まで見届けなくちゃ… ううん、オレがルーの傍にいたいから。 (どうか…) 祈るよう、両手で胸元をぎゅっと掴む。 オレに出来ることなんて何もないから。 せめてルーが傷付かないように、と…。 最大の試練へと対峙する、愛おしいあの背中に向け。 ひたすらに、オレはその身の無事を願った。

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