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「大丈夫。だってルーにはお前が…勝利の神子様が、付いてんだからな。」 「ジーナ…」 視線はルーから反らすことなく、ジーナが告げる。 ふと見渡すと、ヴィンもアシュもオリバーさんも… みんな真剣な眼差しで、この戦いの行く末をじっと見届けていたから…。 オレなんかが動揺して、ルーの足枷にはならないようにしなきゃ…。 声を漏らさないよう、唇を固く結びルーの姿を追う。 攻撃を食らったとはいえ、上手く凌いでいたからか。受けた傷は、さほど酷いものではないようで…とりあえずは胸を撫で下ろす。 この間にも二人は広い建物内を駆け、攻防を繰り広げており。どちらも譲らず、素人目には五分五分の戦いぶりに思えるんだけど… まだまだルーもジークリッドも、実力を出し切っていないように感じた。 「こっからだぜ…!」 「同じ技など…」 休む暇無く、ジークが先程の苦無で畳み掛ける。 数と質量が増した黒い刃は、ジークが手を払った瞬間、一斉に発射されて。 ルーは王の間を駆け抜け、回避を試みたが─── 「逃がすかよ…!」 「っ……!」 ジークの合図で、刃は意思を持って軌道を変え。 それらは弾丸のような速さで、ルーを追撃し続けるものだから。 オレは内心ハラハラしながら、それを見守った。 「ならば…」 ルーが更に加速し…そこで何を思ったのか、城の壁際へと方向転換。自らを、袋小路へと誘う。 もしかするとまた、あの刃を剣で防ごうというのだろうか…?でも今度の刃は、量も威力も前のより数段上だろうから… どう考えても、無謀としか思えなかったけど───… 「っ…!」 しかしルーは速度を緩めることなく、壁のギリギリまで走り─────刹那、その身に風を纏わせ軽やかに床を蹴ったかと思うと… 壁を利用して数歩上へと駆け上がり、高く跳躍して。そのままふわりと宙返りしてみせた。 「それじゃあ避けらんねぇぜ!」 「全て消せば良いだけだ…」 宙を舞ったまま両手に剣を握り締め、下段で構えると。刀身に輝く金色の風が、吸い込まれるよう集まっていき… 魔力を纏うそれを、ルーは未だ自身へと向かって来る刃へ向け、力強く凪払う。 すると風は鋭い衝撃波となり、一迅の風を巻き起こして…黒い刃を、悉く粉砕してみせるのだった。 「やるな…」 「…この力は、私だけのものではない。」 高揚と苛立ちを滲ませ、ジークは笑うが。 反してルーは静かに着地し、心乱す様子もなく淡々と述べる。 「すげぇな、ルーのヤツ…。俺、アイツに今まで一度も勝ったことねぇのにさ…」 成り行きを見つめるジーナが、歯痒そうに呟きながら……拳を握り締める。 「前とは比べものにならないね…これが、歴代の神子が騎士に与えてきたって言う、加護の力…なんだね。」 ジーナの言葉に釣られ、ロロも前を見据えたまま頷いて。 年長組の3人は、固い表情を崩すことなく。 沈黙のまま、ルー達の姿を目に焼き付けていた。 「神子の加護が凄いわけじゃないよ。これはルーが内に秘めていたもので…オレはそれを、引き出しただけに過ぎないから…。」 根も葉もない噂や伝承は様々だったけれど。 加護による力は、誰しもが手に出来るわけじゃなく…。本来はきっと、神子が愛し…認めた者のみに授けられるものだから。 本当に凄いのは、神子じゃなくてルー自身なんだ。

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