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⑤
「お前…名は?」
「…ルーファス。」
名を問うジークリッドは、さも嬉しそうに口角を上げて。
「ルーファス…もっともっと、俺を楽しませてみろ!」
走り出すジークリッド。
今度は刃ではなく、火炎球を作り出し、ルーへと解き放つ。
「挑むところだ…」
ルーも構えた剣に、ひやりとした蒼白の光をその刀身へと纏わせると。飛んで来る火球を次々と切り伏せていった。
火球が切られる度、蒸気を含んだ爆風と黒煙が舞い上がり。二人の姿が途切れ途切れに、見えなくなってしまう。
(ルーっ…)
見失わないようルーの影に目を凝らす。
煙が立ち込める中、少し離れた場所にはジークリッドと思しき人影も見えて。
「オラオラッ…!!」
追い討ちを掛け、容赦なく火球を飛ばすから。
辺りは更に熱風が渦巻き、視界も儘ならない状況に陥り…
その内ルーの影すらも、見えなくなってしまった。
「………!」
そんな状況でも聞こえてくる、ルーの剣が火球を切り裂く音。
オレ以外には皆、見えているのかもしれないけど…そう思うと、なんだか歯痒くてしょうがない。
「目眩ましのつもりか…」
ふとルーの声が、黒煙の中から聞こえたかと思えば…
「あっ…!」
冷気を纏う風が、声の中心から吹き荒び。
充満する煙を火球ごと、瞬時に吹き飛ばしていく。
そうしてルーの顔を認識出来たことに、安堵していた矢先───
「はああッ!!」
いつの間にかルーの足元、煙に紛れ体勢を低くしながら接近していたジークリッドの姿も現れて。
漆黒に染まる手刀を胸元目掛け、突き上げているのが見えた。
オレは息継ぐ暇無く、
茫然とその瞬間を見送っていたが────
『─────…!!』
驚いたのはジークリッドだけじゃなく。
ジーナ達も揃って驚愕したよう、目を見開く。
誰もが最悪の事態を覚悟していた。
けれどルーは、あの一瞬の間に自身の左手を向かい来る手刀へと差し出すと…あろうことか、素手でそれを受け止めてしまったのだ。
不思議なことに、左手からは血が流れる様子は無く…代わりにそこから、淡く光の粒子が立ち昇る。
「侮るなよ…。」
「…面白ぇ。」
ルーが力を込め、手刀を押し退けると。
ジークリッドは間合いを取り、笑みを溢した。
が…
「此方からも…そろそろ攻めさせて貰おう。」
今までは防戦主体だったが、自らも剣を構え攻撃に転じる。
流れるような速さで、正面から一気に距離を詰められて。ジークリッドも直ぐさま回避を試み、動いてはいたものの…。
ほんの僅か、反応が遅れてしまい。
その隙を、ルーは逃すことなく…
「遅い…!」
フェイントを、仕掛けたのだろうか?
真正面から突っ込んでいたはずのルーが、ふっと消えてしまい…
次にはジークリッドの頭上から、
神々しい魔力を帯びた剣を振りかざしていて。
「え───」
「………!!」
咄嗟に手刀の出力を上げて構え、防ごうとしたジークリッド。
切られると、本人でさえ予測していただろうに。
ジークリッドに迫るルーの身体は、突如現れた闇の渦に飲み込まれてしまい…
「ルー…!!!」
オレはただ、本能に駆られ…走り出していた。
「くッ…!」
ジークリッドに振り下ろされた刀身から、
ズブリと墨汁の中へと沈んでいくかのように。
真っ黒な何かに、飲み込まれる。
その正体が何かなんて、一目瞭然だったから…
(行かせない…!)
ルーの元へ走りながら、必死に手を伸ばす。
「セツ…!!」
後ろでみんなが呼び止める声がしても、構わず。
今にも闇に消えてしまいそうなルーの元へと、強く強く願ったなら。
(っ…!)
望み通り、伸ばした手は、
異界の闇の端切れを掴み取って。
オレ自身の身体もまた、ルーが連れ去られたであろう場所へと…誘われるのだった。
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