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「お前…名は?」 「…ルーファス。」 名を問うジークリッドは、さも嬉しそうに口角を上げて。 「ルーファス…もっともっと、俺を楽しませてみろ!」 走り出すジークリッド。 今度は刃ではなく、火炎球を作り出し、ルーへと解き放つ。 「挑むところだ…」 ルーも構えた剣に、ひやりとした蒼白の光をその刀身へと纏わせると。飛んで来る火球を次々と切り伏せていった。 火球が切られる度、蒸気を含んだ爆風と黒煙が舞い上がり。二人の姿が途切れ途切れに、見えなくなってしまう。 (ルーっ…) 見失わないようルーの影に目を凝らす。 煙が立ち込める中、少し離れた場所にはジークリッドと思しき人影も見えて。 「オラオラッ…!!」 追い討ちを掛け、容赦なく火球を飛ばすから。 辺りは更に熱風が渦巻き、視界も儘ならない状況に陥り… その内ルーの影すらも、見えなくなってしまった。 「………!」 そんな状況でも聞こえてくる、ルーの剣が火球を切り裂く音。 オレ以外には皆、見えているのかもしれないけど…そう思うと、なんだか歯痒くてしょうがない。 「目眩ましのつもりか…」 ふとルーの声が、黒煙の中から聞こえたかと思えば… 「あっ…!」 冷気を纏う風が、声の中心から吹き荒び。 充満する煙を火球ごと、瞬時に吹き飛ばしていく。 そうしてルーの顔を認識出来たことに、安堵していた矢先─── 「はああッ!!」 いつの間にかルーの足元、煙に紛れ体勢を低くしながら接近していたジークリッドの姿も現れて。 漆黒に染まる手刀を胸元目掛け、突き上げているのが見えた。 オレは息継ぐ暇無く、 茫然とその瞬間を見送っていたが──── 『─────…!!』 驚いたのはジークリッドだけじゃなく。 ジーナ達も揃って驚愕したよう、目を見開く。 誰もが最悪の事態を覚悟していた。 けれどルーは、あの一瞬の間に自身の左手を向かい来る手刀へと差し出すと…あろうことか、素手でそれを受け止めてしまったのだ。 不思議なことに、左手からは血が流れる様子は無く…代わりにそこから、淡く光の粒子が立ち昇る。 「侮るなよ…。」 「…面白ぇ。」 ルーが力を込め、手刀を押し退けると。 ジークリッドは間合いを取り、笑みを溢した。 が… 「此方からも…そろそろ攻めさせて貰おう。」 今までは防戦主体だったが、自らも剣を構え攻撃に転じる。 流れるような速さで、正面から一気に距離を詰められて。ジークリッドも直ぐさま回避を試み、動いてはいたものの…。 ほんの僅か、反応が遅れてしまい。 その隙を、ルーは逃すことなく… 「遅い…!」 フェイントを、仕掛けたのだろうか? 真正面から突っ込んでいたはずのルーが、ふっと消えてしまい… 次にはジークリッドの頭上から、 神々しい魔力を帯びた剣を振りかざしていて。 「え───」 「………!!」 咄嗟に手刀の出力を上げて構え、防ごうとしたジークリッド。 切られると、本人でさえ予測していただろうに。 ジークリッドに迫るルーの身体は、突如現れた闇の渦に飲み込まれてしまい… 「ルー…!!!」 オレはただ、本能に駆られ…走り出していた。 「くッ…!」 ジークリッドに振り下ろされた刀身から、 ズブリと墨汁の中へと沈んでいくかのように。 真っ黒なに、飲み込まれる。 その正体が何かなんて、一目瞭然だったから… (行かせない…!) ルーの元へ走りながら、必死に手を伸ばす。 「セツ…!!」 後ろでみんなが呼び止める声がしても、構わず。 今にも闇に消えてしまいそうなルーの元へと、強く強く願ったなら。 (っ…!) 望み通り、伸ばした手は、 異界の闇の端切れを掴み取って。 オレ自身の身体もまた、ルーが連れ去られたであろう場所へと…誘われるのだった。

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