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(ルー…) 意識ごと…闇に囚われそうになるのを堪え、我に返ると…。 幾度となく体験した、 違和感の中に入り込めたのだと…自覚する。 「っ───…ルー、ルー!!」 辺りを見渡せど、視界は真っ暗闇。 けれど自分の姿だけは、はっきり見えるものだから…。頭の中が混濁して、おかしくなりそうだ。 けど… 「ルー…!!」 この場所の何処かにいるのだけは確かだから。 全く響かない声を懸命に絞り出し、叫び続けた。 そんなオレの背後から、ゾクリとした気配が現れる。 「本当に目障りだね、お前…」 「ッ…ティンカ…!」 本能的に振り返ったら、思いの外すぐ間近にティンカの姿があり。 目が合う瞬間…なんとも冷ややかな視線を突き付けられ、恐怖に身体が震え。 無言で歩み寄られ、思わずたじろぐ。 「神子も人間も、僕達魔族を脅かすだけ…」 いなくなればいいのに。 放つ言葉は残酷に、綺麗な容姿と相まって。 なんだか…人形みたいだ。 それになんとなくだけど…いつもとは様子が違って見えて。彼の瞳は虚ろながら、鋭くもオレへと向けられていた。 「ルーはどこっ…!?」 そんなティンカに気圧されながらも、 虚勢を張り、強く問い質してはみたけれど…。 彼は答える気など無いのか、苛立ちを露に顔を歪めていき。 「…さい…うるさいっ…もう、死ね─────」 憤慨し…オレに向け躊躇無く手を払い、炎を放った。 思わず身構えたが──── 「ッ…───ルー…!!」 するとそこへ、何処からともなく現れたルーが、いつの間にかオレの前へと立ち塞がり。冷気を纏う剣を盾にして、ティンカの炎を防いでくれていた。 その姿を認め、つい泣きそうになってしまう。 「セツは何故、ここに…」 「え…だって、ルーがっ…!」 ティンカを視界に入れつつ、ルーから低い声で問われ戸惑うオレに。 「私なら、心配要らないと言っただろう?」 ぴしゃりと言い放たれてしまい、身が竦む。 「ごめん…でもっ…」 無意識とはいえ、軽率だったとは思う。 けど…予想外なルーの反応が、あまりにショックで…オレは言葉を詰まらせ、堪らず俯いてしまった。 そんなオレを、ルーは暫し見つめ…重たげな嘆息を漏らすと。 「お願いだから、無茶な事はしないでくれ…。」 そう告げた時の声は真逆に、切実な音を発していた。 「寧ろ丁度良いか…手間も省けることだし。」 ルーに妨害されたことを不服としながらも、ティンカはくすりと微笑んで。 オレ達に向け、殺意に満ちた視線を突き付ける。 「お前達さえいなくなれば、ジークだってきっと…」 喜ぶに違いない───そう、ブツブツと呟くティンカに。ルーは淡々と告げる。 「そうか?…あの男は、このように水を差されるのを…好まぬように思えたのだが?」 「うるさいなっ…どうせ殺るなら、同じ事だろう!」 指摘されたティンカは、酷く取り乱してしまった。 その豹変ぶりは異様でいて…なんだか見ていられないほどに、痛々しい。

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