387 / 423
⑦
「もういい、殺すコロス…お前らなんか、殺シてやるッ…!」
焦点すらおかしくなり、
苦しげに肩で息をし始めたティンカ。
「様子が変だ…アシュもティンカが、すごく取り乱してたって…」
いくら敵とはいえ、放っては置けないし…。
そりゃティンカには、何度も命を狙われてるけど。
彼の複雑な心情を知ってしまったら。
オレとしては、なんだか他人事とは思えなかったから。
どうにかして和解…出来ないのかな?
魔族と神子ってだけで。オレ自身には彼と争う理由なんて、無いんだしさ…。
「この様子だと…おそらく精神的に追い込まれるあまり、闇の力に飲まれてしまったのかもしれない。」
複雑な面持ちでティンカを見つめていると、ルーはオレを守るよう手で制してくる。
この空間の仕組みは、ルーにも判らないらしいけど。
強力な魔法や実力に見合わない召喚術を使った際、稀に制御出来なくなったりして…暴発や、精神なダメージを受けてしまうことがあるそうだから。
ティンカもジークリッドのことで悩み、自らを追い詰めてしまったのかもしれない。
「此処は僕の庭…騎士がただ独りで、神子 を守りながら何処まで戦えるのかな?」
とはいえ、ティンカが言うよう…此処は魔族に有利な領域であり。アシュの時みたく、今のところは崩壊する様子もなく、辺りには不気味な闇が広がり続けている。
そうして心の箍が外れてしまったティンカは、高らかに笑うと手を振りかざして。自身は後退し…代わりに目前へと魔物達を召喚していった。
咆哮と共に、それらが一斉に襲い掛かって来る。
「セツは下がっていろ!」
「ルーっ…!」
前後左右、何処も先が見えぬ暗闇。
果ても隔たりも区別が付かない不利な状況で、ルーはオレに注意を注ぎつつ魔物を迎え撃つ。
オレを庇いながらだから、闇雲に攻めたりはせず。
慎重且つ確実に、一体ずつ敵を切り伏せていた。
しかし空間内での魔族の魔力量は、反則的に上昇していて…
「アハハッ…僕は魔族の中でも最上位の術者だよ!脆弱な人間の体力で…どこまで耐え切れるだろうね?」
虫を踏み潰すような冷笑を湛え、
際限ない魔力で次々と生み出される魔物達。
その数は尋常ではなかったが…ルーひとりでなら、どうにか出来たのかもしれない。
…けど、戦況は既に四面楚歌。
逃げ道も地の利も無く、オレという足枷まで抱えて…。
それでもルーの眼は強かに己を保ち。勇敢にも、剣を奮ってみせるのだった。
ともだちにシェアしよう!