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「もういい、殺すコロス…お前らなんか、殺シてやるッ…!」 焦点すらおかしくなり、 苦しげに肩で息をし始めたティンカ。 「様子が変だ…アシュもティンカが、すごく取り乱してたって…」 いくら敵とはいえ、放っては置けないし…。 そりゃティンカには、何度も命を狙われてるけど。 彼の複雑な心情を知ってしまったら。 オレとしては、なんだか他人事とは思えなかったから。 どうにかして和解…出来ないのかな? 魔族と神子ってだけで。オレ自身には彼と争う理由なんて、無いんだしさ…。 「この様子だと…おそらく精神的に追い込まれるあまり、闇の力に飲まれてしまったのかもしれない。」 複雑な面持ちでティンカを見つめていると、ルーはオレを守るよう手で制してくる。 この空間の仕組みは、ルーにも判らないらしいけど。 強力な魔法や実力に見合わない召喚術を使った際、稀に制御出来なくなったりして…暴発や、精神なダメージを受けてしまうことがあるそうだから。 ティンカもジークリッドのことで悩み、自らを追い詰めてしまったのかもしれない。 「此処は僕の庭…騎士がただ独りで、神子(ソレ)を守りながら何処まで戦えるのかな?」 とはいえ、ティンカが言うよう…此処は魔族に有利な領域であり。アシュの時みたく、今のところは崩壊する様子もなく、辺りには不気味な闇が広がり続けている。 そうして心の箍が外れてしまったティンカは、高らかに笑うと手を振りかざして。自身は後退し…代わりに目前へと魔物達を召喚していった。 咆哮と共に、それらが一斉に襲い掛かって来る。 「セツは下がっていろ!」 「ルーっ…!」 前後左右、何処も先が見えぬ暗闇。 果ても隔たりも区別が付かない不利な状況で、ルーはオレに注意を注ぎつつ魔物を迎え撃つ。 オレを庇いながらだから、闇雲に攻めたりはせず。 慎重且つ確実に、一体ずつ敵を切り伏せていた。 しかし空間内での魔族の魔力量は、反則的に上昇していて… 「アハハッ…僕は魔族の中でも最上位の術者だよ!脆弱な人間の体力で…どこまで耐え切れるだろうね?」 虫を踏み潰すような冷笑を湛え、 際限ない魔力で次々と生み出される魔物達。 その数は尋常ではなかったが…ルーひとりでなら、どうにか出来たのかもしれない。 …けど、戦況は既に四面楚歌。 逃げ道も地の利も無く、オレという足枷まで抱えて…。 それでもルーの眼は強かに己を保ち。勇敢にも、剣を奮ってみせるのだった。

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