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「あはッ…死ね!死んじゃえッ…!」 巨大な魔物に囲まれ… 発狂するティンカの姿も声も、掻き消えてしまい。 禍々しい雄叫びとルーの剣撃だけが、闇の中に浮き上がる。 せめてオレは、足手纏いにだけはならないようにと、努めはするも…凶悪な魔物に包囲された時点で、全身はガタガタと震え出し。もう…立ってるのが精一杯。 そうこうしてる内に、ほんの僅か…ルーとの距離が開けてしまい──── 「隙だらけだねッ…!」 闇に紛れていたのか…魔物の影を目隠しに。 ティンカはオレの目前へと、既に迫って来ており。 垣間見る彼の手には、圧縮された魔力の塊が錬成されていて… 「これで終わりだよ!神子…────」 その手が、オレの方へと突き出され。 瞬く間に脳内で、現状を把握する。 これを食らえばきっと、命は無い…と。 (ル────) 避けられない、そう悟った時。 「うおおお───…!!!」 魔物を力業で捩じ伏せ。 吠えるルーが、勇ましく地を蹴る。 するとその身体は、一瞬で光の柱を纏い… 次には、人とは思えぬ反射速度で以て。此方へと向かって来て───… 「ッ……!!」 オレへと殺意を向けるティンカに、 ルーが弾丸の如く迫り。 考える間もなく、ルーは本能で動き。 その手に輝く剣を振りかざして、 (ああ…!) あっという間だった。 ほんの刹那の時… 反してその瞬間が、目の前でゆっくりと再生される。 ルーによる人智を超えた一撃は、ティンカの身体を確実に、 貫いた─────…はずだった。 「ぐッ…!」 「え…」 しかし、倒れたのはティンカではなく。 彼の前で、は力無く膝を付く。 それは… 「嘘…どうしてっ…」 ルーの剣で切り裂かれた傷から、(おびただ)しいほどの鮮血が滴り落ちる。 皮肉にも正気を取り戻し、愕然と打ち震えるティンカ。対して… 「邪魔すんなって…言ったろ、ティン…カ…」 「ジークッ…!!」 ティンカを庇い、負傷するジークリッドは。 痛々しい姿とは裏腹に… 柔く微笑んでいた。 「ああッ…」 その場に倒れるジークリッドの大きな身体を、ティンカが必死で受け止める。 「ジーク…ジークッ…!」 取り乱すティンカは、ジークの胸に刻まれた傷を見て… 堪らず涙を流した。 ティンカの身代わりとなって受けた傷は、 肩口から腹にかけ、深く刻まれており。 致命傷…なんて言葉すら生温く。 オレも身震いし、思わず口元を押さえた。 この現状に…心が追い付かず、息が詰まる。 「…………」 ルーに至っては、複雑な表情を浮かべながら、血の滴る剣をしばらく眺めていたけれど…。 敢えてそれを鞘に納めることはせず。 横たわるジークリッドを、ただ黙って見つめていた。

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