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⑧
「あはッ…死ね!死んじゃえッ…!」
巨大な魔物に囲まれ…
発狂するティンカの姿も声も、掻き消えてしまい。
禍々しい雄叫びとルーの剣撃だけが、闇の中に浮き上がる。
せめてオレは、足手纏いにだけはならないようにと、努めはするも…凶悪な魔物に包囲された時点で、全身はガタガタと震え出し。もう…立ってるのが精一杯。
そうこうしてる内に、ほんの僅か…ルーとの距離が開けてしまい────
「隙だらけだねッ…!」
闇に紛れていたのか…魔物の影を目隠しに。
ティンカはオレの目前へと、既に迫って来ており。
垣間見る彼の手には、圧縮された魔力の塊が錬成されていて…
「これで終わりだよ!神子…────」
その手が、オレの方へと突き出され。
瞬く間に脳内で、現状を把握する。
これを食らえばきっと、命は無い…と。
(ル────)
避けられない、そう悟った時。
「うおおお───…!!!」
魔物を力業で捩じ伏せ。
吠えるルーが、勇ましく地を蹴る。
するとその身体は、一瞬で光の柱を纏い…
次には、人とは思えぬ反射速度で以て。此方へと向かって来て───…
「ッ……!!」
オレへと殺意を向けるティンカに、
ルーが弾丸の如く迫り。
考える間もなく、ルーは本能で動き。
その手に輝く剣を振りかざして、
(ああ…!)
あっという間だった。
ほんの刹那の時…
反してその瞬間が、目の前でゆっくりと再生される。
ルーによる人智を超えた一撃は、ティンカの身体を確実に、
貫いた─────…はずだった。
「ぐッ…!」
「え…」
しかし、倒れたのはティンカではなく。
彼の前で、その人は力無く膝を付く。
それは…
「嘘…どうしてっ…」
ルーの剣で切り裂かれた傷から、夥 しいほどの鮮血が滴り落ちる。
皮肉にも正気を取り戻し、愕然と打ち震えるティンカ。対して…
「邪魔すんなって…言ったろ、ティン…カ…」
「ジークッ…!!」
ティンカを庇い、負傷するジークリッドは。
痛々しい姿とは裏腹に…
柔く微笑んでいた。
「ああッ…」
その場に倒れるジークリッドの大きな身体を、ティンカが必死で受け止める。
「ジーク…ジークッ…!」
取り乱すティンカは、ジークの胸に刻まれた傷を見て…
堪らず涙を流した。
ティンカの身代わりとなって受けた傷は、
肩口から腹にかけ、深く刻まれており。
致命傷…なんて言葉すら生温く。
オレも身震いし、思わず口元を押さえた。
この現状に…心が追い付かず、息が詰まる。
「…………」
ルーに至っては、複雑な表情を浮かべながら、血の滴る剣をしばらく眺めていたけれど…。
敢えてそれを鞘に納めることはせず。
横たわるジークリッドを、ただ黙って見つめていた。
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