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「あ…!」 ティンカが泣き始めた途端…彼が冷静さを失ったからなのか。場を覆う異空間の壁は、その形を保てなくなり… 歪に揺れたかと思えば、一気に崩れ出してしまう。 すると崩れた箇所から、徐々に現実世界へと繋がっていき──── 「ど、どうなってんだ…」 からジーナの驚く声が聞こえ。 空間を隔てていた闇も霧散して、跡形も無く消え去ると… オレ達は皆、元いた場所へと戻されていった。 「セツ、ルー…!!」 遠巻きにロロが叫び、みんなも揃ってオレ達の方へと近付いて来る。 「ルー…」 「………」 しかしオレもルーも、今は目の前のふたり… ジークリッドとティンカから目が離せず。 返事するのも忘れ、ただただ茫然と佇むばかり。 「ティンカ…!!」 ラルゴと双子達も異変に気付き、急いで駆け寄って来たが… 「ジーク…」 現実を目の当たりに、彼らも絶句して。 その場に…立ち尽くしてしまった。 全員が困惑するあまり… ずしりと重い沈黙が、王の間へと漂う。 「どう…して、こんなっ…」 「泣くなよ、ティンカ…」 ボロボロと泣きじゃくるティンカに、 ジークリッドはあくまで笑って返す。 「ごめん…僕が、勝手ばかりしたからっ…」 「気にしちゃいねぇ、よ…」 今までの荒々しさが嘘みたいに。 ジークはティンカに向け、優しい言葉を投げ掛ける。 それは彼が、何よりティンカのことをを理解しているからと…全て覚悟の上だったんだと、言っているような気がしたから…。 察するティンカもまた悲鳴を上げ、涙を溢れさせた。 「お前は家族を…俺を想って、したことだろ…」 「違うんだ、そうじゃなくて…僕はっ…」 家族とか仲間とか、そんな穏やかな関係じゃないんだと。ティンカは大人っぽい顔付きで、子供のように否定する。 「僕はジークが好きだからっ!…なのに君は、神子の事ばかりで…だからっ…」 下心を打ち明けたティンカの頬に。 ジークは触れようとして、思い止まり… 頭の方へと手を伸ばす。 「俺みてぇな野郎の、何処を好きになるってんだ…」 自分は乱暴者で我が儘で。 誰かに好かれるような謂れは無いのに、と。 「お前にはっ…俺なんかより、よっぽど大事にしてくれる奴が、いるだろうよ…」 「…………」 諭すよう告げるジークリッドの言葉を、 ラルゴは複雑そうに見守りながら、拳を握った。 「なっ…そんな最後みたいな言い方しないで…!!」 嫌でも判る。けど…ティンカには、受け入れ難い事実であり。嫌だ嫌だと駄々を捏ねるよう訴える。 しかし… 「はは…もう少し楽しみたかったがなっ…我ながら、ダセェ幕引きになりそうだ…」 「もうやめてってばッ…!」 『ジークッ…!』 ルナーとコナーも黙っていられなくなり、 泣きながら揃ってジークの名を叫ぶ。 初めて見る双子の、年相応に仲間を憂う姿と。 ティンカの切実な涙、そして… (…………) 魔王と呼ばれる男の、誠実な一面に。 気が付いたらもう、オレの心は…突き動かされていた。

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