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⑨
「あ…!」
ティンカが泣き始めた途端…彼が冷静さを失ったからなのか。場を覆う異空間の壁は、その形を保てなくなり…
歪に揺れたかと思えば、一気に崩れ出してしまう。
すると崩れた箇所から、徐々に現実世界へと繋がっていき────
「ど、どうなってんだ…」
外からジーナの驚く声が聞こえ。
空間を隔てていた闇も霧散して、跡形も無く消え去ると…
オレ達は皆、元いた場所へと戻されていった。
「セツ、ルー…!!」
遠巻きにロロが叫び、みんなも揃ってオレ達の方へと近付いて来る。
「ルー…」
「………」
しかしオレもルーも、今は目の前のふたり…
ジークリッドとティンカから目が離せず。
返事するのも忘れ、ただただ茫然と佇むばかり。
「ティンカ…!!」
ラルゴと双子達も異変に気付き、急いで駆け寄って来たが…
「ジーク…」
現実を目の当たりに、彼らも絶句して。
その場に…立ち尽くしてしまった。
全員が困惑するあまり…
ずしりと重い沈黙が、王の間へと漂う。
「どう…して、こんなっ…」
「泣くなよ、ティンカ…」
ボロボロと泣きじゃくるティンカに、
ジークリッドはあくまで笑って返す。
「ごめん…僕が、勝手ばかりしたからっ…」
「気にしちゃいねぇ、よ…」
今までの荒々しさが嘘みたいに。
ジークはティンカに向け、優しい言葉を投げ掛ける。
それは彼が、何よりティンカのことをを理解しているからと…全て覚悟の上だったんだと、言っているような気がしたから…。
察するティンカもまた悲鳴を上げ、涙を溢れさせた。
「お前は家族を…俺を想って、したことだろ…」
「違うんだ、そうじゃなくて…僕はっ…」
家族とか仲間とか、そんな穏やかな関係じゃないんだと。ティンカは大人っぽい顔付きで、子供のように否定する。
「僕はジークが好きだからっ!…なのに君は、神子の事ばかりで…だからっ…」
下心を打ち明けたティンカの頬に。
ジークは触れようとして、思い止まり…
頭の方へと手を伸ばす。
「俺みてぇな野郎の、何処を好きになるってんだ…」
自分は乱暴者で我が儘で。
誰かに好かれるような謂れは無いのに、と。
「お前にはっ…俺なんかより、よっぽど大事にしてくれる奴が、いるだろうよ…」
「…………」
諭すよう告げるジークリッドの言葉を、
ラルゴは複雑そうに見守りながら、拳を握った。
「なっ…そんな最後みたいな言い方しないで…!!」
嫌でも判る。けど…ティンカには、受け入れ難い事実であり。嫌だ嫌だと駄々を捏ねるよう訴える。
しかし…
「はは…もう少し楽しみたかったがなっ…我ながら、ダセェ幕引きになりそうだ…」
「もうやめてってばッ…!」
『ジークッ…!』
ルナーとコナーも黙っていられなくなり、
泣きながら揃ってジークの名を叫ぶ。
初めて見る双子の、年相応に仲間を憂う姿と。
ティンカの切実な涙、そして…
(…………)
魔王と呼ばれる男の、誠実な一面に。
気が付いたらもう、オレの心は…突き動かされていた。
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