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「こいつは俺が独断で決めたことだ。だからお前らまで従えとは言わねぇ。」 ジークリッドにとっては、ティンカ達もラルゴも。 まるで家族のような繋がりを感じるからか… その言葉は、魔王としての命令というよりも。懇願していると言った方がしっくりとくる。 だからこそ名指しされた3人は、こうして迷っていたのだけれど。 「ティンカ…」 「…いいよ、もう。ジークとラルゴが、それで良いなら…。」 言い淀んでいたティンカの背を、ラルゴが後押しすれば。 彼はそう、ぽつりと応え。 そのティンカを見上げるルナーとコナーもまた、しゅんとして項垂れながらも… 「ならボクらも…約束は守るよ。」 「そうか…悪いな…」 うんと頷く双子を認め、ジークリッドは苦笑ながら嬉しそうに息を漏らした。 ふらりと立ち上がろとする彼を見て、すぐ傍にいたオレは反射的に手を伸ばしていたけど…。 ラルゴが空かさず動き、その身体を支える。 「…つうわけだから。俺らは大人しく退散させて貰うよ。」 「うん、そだね…」 去り際、じゃあなと別れを告げるジーク達を見送りながら。 「あっ…ねぇ、ジーク!オレ、さっきは結界を直すって言い切っちゃったけどさっ…」 結界を張ると、魔族や魔物が弱体化するって話だろ? なら全て直したら、最終的に魔族達はどうなっちゃうのかなって。 今更だけど、心配になってきたもんだから…。 「…お前が扱う結界ってのは、魔族の力の大元とも言える瘴気の大半を封じる為のもんだ。ある程度の制限は受けるだろうが…魔法や力が使えなくなるわけでもねぇし、生きてく分には支障はねぇよ。」 人間が精霊や自然界の力を主体として、魔法を扱うのに対し。魔族はそれらに加え瘴気を主として魔力や身体能力を強化出来るらしいので…。 元々規格外な実力を備えている種族が、人並み程度に弱体化するようなものであり。 結界が原因で苦痛を伴うとか、そういった制約はないそうだから… 「なら良かった…」 言った手前ながら、オレは安堵して胸を撫で下ろした。 「ほんと変わってんな。神子が魔族(てき)の心配なんざ、してる場合かよ…」 これからは人間側だって、納得させなくちゃならねぇだろって。ジークは呆れ口調だけど。 「そうだけどっ…魔族だからって、別に心配くらいしてもいいだろ?」 フェレスティナで暮らす人々に、大切な人がいるように。魔族にだって家族や仲間、恋人だっているはず。 だから普通のことだろって答えたら。ジークは何故か吹き出してしまい…。胸に残る傷痕を痛そうにしながらも、何やらツボにハマってしまったらしい。 彼を支えるラルゴも、しょうがないなとばかりに苦笑う。 「ははっ…やっぱ面白ぇな、お前。」 「そう?そんな面白いこと言ったつもりないけどなぁ…。」 笑い過ぎじゃない?と首を傾げれば、今までの印象など簡単に覆して笑いを堪えるジーク。 こうしてると、今まで魔族達(かれら)と敵対してたのが不思議なくらいだ。 けど…ルーのことがあるから。 内に残るこの(わだかま)りを、まだすぐには消せないだろうけどね… 「…そろそろ行くぞ、ジーク。」 オレとジークリッドの遣り取りを。 悲しげに静観していたティンカを尻目に、ラルゴが促して。 今度こそ魔族達は、背を向けて歩き出したのだが…

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